ドラマ

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……また出来なかった。 ──撮影はまだ始まったばかり。 ──慣れるまでは仕方ない。 ──初めてのドラマなんだから気にしないで大丈夫。 ──セリフは言えてるから問題ないよ 周りからそんな慰めの言葉を掛けられるたびに恥ずかしくなる。 うまく出来てないのは自分が一番わかってる。でも、なんでうまく出来ないのかが分からない 「ハァ……」 思わず出た溜息を慌てて台本で隠す。 「勝美」 振り返るとヒカルさんがオレをジッと見て 「おいで」 ヒカルさんが歩いていったから急いで着いて行くとスタジオの隅に腰を下ろした。 「座って」 オレを見上げながら隣をポンポンと叩く オレが座ったのを見届けてから 「ちゃんと役を理解出来てるのか?見てて全然かわいくない。オマエの役はもっとハツラツとしてて明るい。バカだけど憎めない愛嬌があるんだ。内面から出る可愛さが全然見えない。このままじゃ先に進めない」 え? 「…ダメ出しですか」 撮影が始まってから優しくしてくれてたから、今も励ましてくれるものだとばかり思ってたのに。 「事実だろう?長い片想いのきっかけになるオマエの楽しそうな笑顔、1度も出てない。大事なシーンだろう」 「…っオレはちゃんと笑ってました! …監督だってOK出してくれました」 言い返したオレを見てヒカルさんは首を軽く振ると 「俺の心が動かなかった。だから、あの笑顔は違う」 何言ってんだこの人。 「ヒカルさんの心がとか関係ないじゃないですか!キレイに笑えて、それが撮れてみんな納得できたなら問題ないじゃないですか!」 ヒカルさんの片眉がピクッと上がった 「勝美、勘違いするなよ。上手く出来ないのは良い。綺麗に映らなくたって、セリフを間違えたって良いんだ。…ただ心がないのは伝わる。観てる人はすぐに分かるんだ。オマエ自身も納得出来てない、目の前に居る俺1人の心すら動かせない。それでどうやってレンズの奥に居る何百万、何千万の人を惹きつけられるんだ?」 何も返せずにヒカルさんの顔を見ると、 ヒカルさんが、それは本当に美しく 無機質に、微笑んだ 「綺麗なだけな物を撮れば良いと思うなら写真集でも出したらどうだ?」 ヒカルさんが立ち上がる 咄嗟にヒカルさんの手首を掴んで引き留めた 「ヒカルさん……怒りましたか。オレとはもうやりたくないですか…?」 ヒカルさんの手首を掴んでいたオレの手に、ヒカルさんはそっと触れて 「…始まった撮影を簡単に中止する事は出来ないんだよ。どんなに嫌でも受けた仕事は途中で投げ捨てられない。オマエが変わるしかないんだよ。」 ゆっくりと手を振り払われた ヒカルさんの後ろ姿を見ながら言われた事を反芻する オレが変わらないと進めない
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