シナリオ

1/1
前へ
/9ページ
次へ

シナリオ

あれからも撮影は進んでる。 まだヒカルさんとの絡みは少ない。 だから早く、オレは役に入り込まなきゃならない 毎日時間が許す限り原作を読み込んで、その世界観と1人1人の登場人物がどういう人間なのかを突き詰めていく ヒカルさんが演じる主人公、トウマ。 彼は大学内でとても美しいと有名な王子。大学外からも彼を見に来る者が居る程だ。 彼はいつも無表情、笑った顔を見たことがある者も居ない。彼が心を許す友人でさえも口角が微かに上がるのを見ただけ。 何にも心が動かない氷の王子。 オレが演じるのはケイ。 トウマと同じ大学、同学年。 トウマの存在すら認識していない。 ケイは常に彼女がいる。居るが、いつも交際期間は短い。軽い気持ちで恋をするから続かない。しかし惚れやすく彼女は途切れない。 友人も多く、面白い事には全力で乗っかり、全力で楽しむ。 単純でお調子者、明るい。 トウマとケイの接点はこの学園ではまだない。 しかしトウマはケイを知っていた。 この学園に入る3年前。トウマには強烈な記憶として残っている。 まだ高校生の頃。 その日は文化祭で、外部からも人が来場したくさんの人が溢れていた。 トウマの容姿はその時すでに有名で、他校の生徒やスカウトを目的とした大人達がトウマを追いかけ回していた。 その事に辟易したトウマは人目につかないように校舎横にある林に足を踏み入れる。 鬱蒼とした林に好んで入るものは居ないのだが、実は生い茂る草木を暫く進むと綺麗に整備された広い庭が存在しているのだ。 刈られた芝、ベンチ、小さなハウスが建ち、生垣や庭木が美しくあり、騒々しさもない。 昨年卒業した生徒会長が、美しい幼馴染の逃げ場所にと教えてくれたのだ。 「…ふぅ」 小さく溜め息をついて木陰にあるベンチに座る 文化祭は何時までだったか…、とぼんやり考えていると ──ガサガサっと向かいの樹木横の生垣が揺れた。 見つかったか…とそちらを見ていると 猫が入って来た。 と、その後に男の子。 頭に葉っぱを付けた男の子が猫と同じ位まで体勢を低くしながらやって来たのだ。 1番初めに思った事は「なぜ」 この場所まで来るのは、そんなにボロボロになる程ヒドイ道ではないのに。 彼はまだトウマがココに居ることに気付いていないようだ。 一生懸命、猫に話しかけている。 「すげえ、こんなトコに出てくんだ。オマエの住処にはちょうど良いんだね。」 すると、おもむろに手を伸ばしその猫に差し出した。 猫が近寄り、その手に鼻を擦り付けると中から仔猫が出てきた。 仔猫は母猫を認識するとピョンと手の中から抜け出した 「今日は人が多いからね、アッチには行かない方が良いよ。ゴハンなにも持ってなくてゴメンな」 未だ芝生にうつ伏せるような体勢のまま猫の頭を撫でながら話し掛けている彼に 「…ある。…ねこのゴハン。だから大丈夫」 近づき思わずそう声を掛けていた。 彼はうつ伏せたままオレを見上げた。逆光だからか、彼は目を細めながら 「人いたんだ。良かった!ゴハンあげてくれる?」 「うん。」 もっと何か話し掛けようなんて、普段からは考えられない事をしようとしていたら 彼から電子音が鳴り響いた 「あっ!やっべー、行かなきゃ!じゃ、猫よろしくね!」 彼は陽だまりのような明るい笑顔を浮かべ、来た道を這って帰ろうとしたから 「あっ…、アッチ、道歩きやすい」 トウマが入って来た道を指し示すと、 「アリガトっ!」 また柔らかな笑顔を見せて、そのまま走って行った オレがココに来るといつも近寄ってくる猫が、オレの足元でスリスリと頭を擦り付けている。 「あぁ、…ゴハン……」 言いながら彼が去って行った道をしばらく見ていた。 ようやく時間が経って、ハウスに置いてある猫のゴハンを取りに歩く 「ウチの制服じゃなかった」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加