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精神集中
中学2年生の佐藤 真は、自分の部屋に座って、精神を集中させていた。
『鈴子ちゃん。鈴子ちゃん・・・・ようし。見えてきた。』
真はある日、突然気付いたのだ。
自分がみたいと思っている人を強く思い浮かべると、その人とその時起きている様子が見えることに。
それは小学校5年生の頃に、共働きの母を待っている時の事だった。
とにかくおなかが空いていたのだが、その日に限って、カップ麺もパンもなにも家にはなかった。
お金も持っていないし、何もない時にはキッチンのテーブルの上のコップの下に1000円札が挟んであって、『何か買ってね。』と書いてあるメモが置いてあるのだ。
とにかくその日は何もなく、育ち盛りの真はおなかが空いて仕方がなかった。
『おかあさんめ~。色々忘れてるな~。』
と、母親の事を強く思っていると、母親が大急ぎで駅の改札を出て、駅前のスーパーに入っていくのが見えた。
真は驚いたが、『なんだろ。一瞬寝てた?それとも、お母さんの事考えたから見えたのかな?』と考えながら帰宅した母に、
「ねぇ、お母さん、走って改札抜けて駅前のスーパーに入って行ったでしょ?」
と聞くと、
「あら、やぁねぇ、どこでみてたのよ。声かけてよ。」
と、返されたので、どうやら本当に母親の姿が見えたらしい。
それ以来、真は色々な人の事を思い浮かべてみることを試し始めた。
真の家から駅までは徒歩で5分ほど。最初はその程度の距離の人の事しか見えなかったのだ。
何度か試すうちにだんだんと思い浮かべる人の距離がのびていって、今は徒歩30分圏内の人だったら、大抵の人の事が見えるようになっていた。
この日、真は小学校の頃から好きだった鈴子ちゃんの事を思い浮かべた。
時間的に言って、部活動も終わり、自宅に帰っているはずのこの時間。
『上手くいったら鈴子ちゃんがお風呂に入っている所とか見えちゃうかも。』
そんな、いかにも中学二年生が考えそうな浅知恵で、鈴子ちゃんの事を懸命に思った。
やった。丁度鈴子ちゃんは脱衣所で服を脱いでいるではないか。
『うわ~、うわ~、どうしよう。鈴子ちゃんの裸。見えちゃうな~。』
と、言いながら、足をもじもじと閉じてふくらみを感じていた瞬間、
「佐藤君、何よその足の間は。見えてるわよ。」
と、頭の中の鈴子に中二の男子が一番見られたくない所を指摘された。
『え?え?鈴子ちゃんからも俺が見えてる?鈴子ちゃん、俺の事思ってくれてたのかな?』
「佐藤君。君の探知能力が低いのは知ってたけどさ、中二になって、集中しないと人の事が見えないなんて、遅れてるわよ。
みんな、人の事が見えないように集中する方に気を配っているのに。」
『え?え?皆見えてるの?』
「そう。みんな人の事が見えてしまうのよ。中二だったら3Km先までは少しだけ考えただけでも見えている筈よ。見える距離はどんどん伸びていくわ。
だから、失礼のないようにみない方に精神を集中するのに。あきれたものね。」
真は自分が覗こうとしていた大好きな鈴子ちゃんに、自分の情けない姿をみられていたことにショックを受けて、半べそを書きながらリビングに降りて行った。
「真~、女の子を覗いちゃだめよ~。覗かないように精神を集中してね。お巡りさんが真の事見てたら捕まっちゃうわよ。」
「え?え?お母さんも見えるの?」
「あぁ、真がこの能力に関して遅れていたのは知っていたんだけどねぇ。もしかしたら発動しないのかとも思ったけど、小学校でやっと発動した物ねえ。
見える距離が少しのびたからって、マナー違反はだめだわね。
この星に住んでいる人はみんな持っている能力なのよ。
大人になったらどんどん見える距離はのびているから、思った人の事はどこでも見えるわよ。同時に複数の人の事も見えるようになるわ。
だから遠くにおじいちゃんたちが離れて暮らしていてもいつでも見ることができて安心できるの。
相手から見られていることも感知できるのよ。真はそっちの能力はどうやら発動しないみたいだから、いつも正しい生活をしていないと、誰に見られているかわからないわねぇ。」
「う・・うぇ~ん。今日、鈴子ちゃんに俺のもっこりを見られちゃったよ~。」
「見てたわよ。あんたが部屋でめっちゃ集中しているから何を見たいのかと思ってね。母さんもあんまり見たくなかったわね~。
鈴子ちゃんには明日謝りなさいね。」
こうして、能力が伸びたと喜んでいた真の日々は残念な結果に終わった。
【了】
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