孤城落日

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「う……」 目が覚め、激しく咳き込みながら、周囲を見回した。 よかった。王都テジンケリの橋の下だ。 もし、戦場からの再開だったらどうしようかと思っていた。 川の斜面を登って、西門から王都テジンケリへ入る。 孤児院には寄らずに城の近くにある隠し通路と繋がった井戸へ近づく。 まだ王女は上がってきていない。 城の方を見ると、爆発音とともに火の手が上がり始めた。 「離しなさい、国を見捨てるわけにはいかないのです!」 「王女様、なりません。はやくしないと追手がきます!?」 しばらく井戸の近くで待っていたら、王女の声が聞こえた。 前回は井戸を覗き込んだせいで、クロスボウで撃たれた。 なので、今回はすこし離れて様子を見ることにした。 「あなたは誰!?」 「サオンと申します」 10代中頃の女の子と20代前半の男性が出てきた。 ふたりとも平民の恰好をしているが、誤魔化しようのない気品さが漂っている。 少女の前で片膝を折り、(こうべ)を垂れる。 「あなたは私が何者か知っているの?」 「いいえ、今しがた王女様と聞こえたものですから」 小ぶりなクロスボウの矢先が自分へ向いている。 帯剣している男性は手が剣の柄に触れていて、いつでも抜ける体勢を取っている。 「忘れなさい、私は王女でも何でもないわ!」 「わかりました」 違うと言い張るのは、なにか深い訳があるのだろう。 前回、矢を射られたのにもう一度、顔を合わせた理由。 それは彼女が「国を見捨てるわ(・・・・・・・)けにはいかない(・・・・・・・)」と話していたから。 眉唾だと思っていたある噂がある。 テジンケリ城の西の尖塔には少女が幽閉されている、と。 夜中に窓から顔を出している彼女の姿を目撃したという国民が意外といる。 少女の幽霊だという噂もある。 また、先王と噂があった辺境伯爵夫人との間に設けた庶子という説も。 いずれにせよ現国王には煙たい存在だったに違いない。 だからこそ(・・・・・)、先ほどの発言には意味がある。 どうしようもない国王とは違い、この国の行く末を案じている王位継承者。 目の前の少女に仕えたい、という訳ではない。 せめて、力になれることがあれば、手を貸したいだけだ。
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