孤城落日

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見張りはひとりか。 テジンケリ城の北門の前に停めてある馬車。 馬が5頭に兵車と呼ばれる馬車が1台。 見張りの男は城の方を気にしていて、建物の陰に隠れた自分に気がついていない。 そっと近づいて、男の後頭部をフレイルの柄で殴って気絶させた。 次に繋がれている5頭の馬の綱を切り、解き放った。 そして自分は2頭立ての兵車へ乗り込み、手綱を握る。 この馬や兵車は十中八九、城の中で暴れまわっている反乱者のもの。 拝借しても、まったく胸は痛まない。 おっと、これは運がいい。 弓矢や投槍器(アトラトル)投石器(スリング)の数々が載っている。 兵車を走らせて、王女の元へ向かう。 ちょうど井戸から出て、南門の方角へ逃げようとしていたところだった。 前回と違うのは襲撃者が迫っており、王女の足で逃げきるのは難しい状況にあること。 「飛び乗ってください!」 大声で叫ぶと王女の護衛の男が反応した。 王女を横抱きにして、横切ろうとしている兵車へうまく飛び乗ってくれた。 「王女様、頭を低くしてください」 護衛の男は、まるで事前に知っていたかのように動く。 王女の頭を下げさせ、自らはたくさん載っている武器を手に取った。 襲撃中の男たちが声を上げる。 するとその声を聞いて、進行方向の先にある脇道から別の連中が出てきた。 「南門へまっすぐ突っ切ってくれ」 「はい!」 護衛の男が、兵車に近づいてきた男の額を矢で撃ち抜きながら、指示を出す。 南門が見えてきた。 前回はここで数十人くらいに囲まれたが、今回はまだ集まっていない。 制止を呼びかけられたが、手綱をさらに振って加速する。 槍で首を狙われたが、頭を振ってかわした。 以前の自分なら確実に当たっていた気がする。 轢きそうな勢いで南門へ突撃したので、阻んでいた連中は恐れて道を空けた。 そして南門をくぐると同時に護衛の男が門の縄を弓矢で切断した。 「何者だ?」 「サオンと申します」 「なぜ俺たちを助けた?」 「それは……」 護衛の男が、後ろから手綱を握る自分の首筋へ刃を当てる。 死に戻っている話を正直にしたところで怪しまれてしまいそう。 ふたりには申し訳ないが、すこし嘘をつく。 「大人数に襲われていたので、助けました」 「そうか、だが……」 ずいぶんと都合が良すぎるのではないかと問い詰められた。 ひとりで街中を巡る馬車とは到底思えない武器の数々。 都合が良すぎる登場。 たしかに疑われて当然だと思う。 「ここで降りてもらおう」 王都テジンケリから少し離れた木々が生い茂り、視界の悪い場所。 ここなら周囲から発見されにくい。 素性の知れない者をここで降ろして逃げる。 もし、自分が王女の護衛でもきっとそうすると思う。 「私はキサ王国の第1王女カルテア」 「いけません王女様!」 「ダンヴィル、いいのです。この者は信用できます」 やはり王女だったのか。 カルテア王女から助けた礼を受けた。 でも今は非常時。 次に会った時、あらためてちゃんとお礼をしたいと言われた。 信用できたとしても、2頭立ての馬車。 3人よりは2人の方が、より早く王都を離れることができる。 それに自分ひとりなら、命を落としてもやり直しができる。
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