孤城落日

6/8
前へ
/100ページ
次へ
「わかりました。では、お気をつけて」 「サオン、貴方に神のご加護があらんことを」 王女たちと別れて、小一時間が経った。 木々が生い茂った場所を過ぎると道が二手に分かれていた。 左はキサ王国と皇国ホンの国境にある峡谷へ行く道。 右がジューヴォ共和国へ繋がっていると立て札に書いてある。 ここは迷うことはない。 ふたりはこれからジューヴォ共和国へ向かうと話していた。 お礼を貰いたいとかではない。 ただ、こんな不思議な現象が起きる身になったのには、きっと意味がある。 王女を助ける道が正解とは限らない。 でも、自分はそうしたい。 国が変わるならそれを見てみたい。 彼女が王宮内でどんな処遇を受けていたかは、なんとなく想像はつく。 他の王族はお会いしたことはないが、王女は(じか)で見た。 だから少しでも力になれたらと思った。 立て看板の矢印のとおり右を選んで、しばらく歩いていた。 ん、あれは……。 王都テジンケリの方角から砂埃が舞うのがみえた。 徐々に複数の馬の蹄の音が響き始めた。 「よお、兄ちゃん。この道を兵車が通らなかったかい?」 上調子の軽薄そうな男。 紫色の長い髪を左側の耳元で結んで流している。 金色の耳飾りと唇に2本の輪っかを留めてある。 外見通りで判断するなら闇街の住人という言葉がしっくりくる。 「……いえ、1台も見ていません」 表情を変えず、声色を揺らさずに答えることができた。 「おかしいな。車輪の跡はこの道に続いてたんだけどな」 しまった。 よくみると比較的、砂地が多い道。 轍ができても1日かそこらで、すぐ消えるのを見落としていた……。 「あとほら? 馬の歩幅……完歩が広いでしょ」 他に歩様という蹄の跡の残り方について説明を受けた。 結論として、この足跡はかなり急いでいたことを示すという。 「盗まれた兵車も2頭立てだし……ねえ?」 くそ、完全に疑われている。 ──やるか? 軽薄そうな男を含めて、ちょうど10名の騎兵 だけど、全員がただの兵士じゃない。 かなりの腕利きだとみて間違いない。 やりあって勝てるか? いや絶対ムリ。 知らないフリを押し通した方がいい。 「でも見ていないのですが?」 「ふーん、そう?」 「貴様、嘘をついたらタダでは済まないぞ!」 「まあまあ……よし、兄ちゃん、わかった」 「た、隊長!」 「もう1本の道を見てこようよ?」 「くっ、わかりました……」 軽薄そうな男が、自分を詰問しようとした騎兵をなだめる。 そのまま顎を振って、他の騎兵たちの踵を変えさせた。 「それじゃあ、またね(・・・)」 「ええ、またご縁がありましたら」 笑顔で馬の向きを変えた。 見透かされているような目がとても気になった……。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加