凶漢叛徒

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凶漢叛徒

「こんなガキが隊長? どうかしてるぜ」 「カルテア様って誰?」 盗賊っぽい細身の男と魔法使い風の女性が同時に話しかけてきた。 「上からの命令ですから、あと詳しい話は命令で何も話せない」 「ちっ、マジかよ……」 「ふーん……まあ、別にいいわ」 それぞれ違う反応を示した。 任務の性質上、これ以上は何も話せない。 彼らがどんなに疑問を抱いても、答えることを許されていない。 他のふたりは静かにしているが、思う所はそれぞれあるはずだ。 「ここで準備をしろ、好きなだけ持って行ってかまわん」 天幕を出た後、巨象人(トゥスカー)の大男についていった。 難民施設の端にある兵士詰め所にある資材庫へ案内された。 武器や防具だけではなく、食糧や衣類、薬なども置いてある。 ここはお言葉に甘えて、十分な量を持ち出そうと思う。 「最終確認だ」 資材庫を物色している志願者へ巨象人が声をかけた。 「かなり危険な任務となる。やめたい者は今、申し出ろ!」 そう言われても誰も手を止めようとするものはいなかった。 それを見て、巨象人は眉根を寄せた。 今の表情はどういう意味が隠されているんだろう? 少し気にはしつつも背嚢を手に取り、食糧を詰め込む。 次に皮でできた腰帯と腿帯に短剣と小刀を差していく。 あのあまりにも長く凄惨な戦場で学んだことがある。 それは武器は、ひとつではダメだという教訓。 周りの味方は、槍がダメになったと同時にすぐに殺されていた。 でも、武器なら倒した相手から奪うこともできる。 その武器が壊れたら、また次のものを求めればいい。 だが、相手が格上ならどうだろう? 自分の武器が使い物にならなくなったら、それで終わってしまう。 なので、副武器や予備の武器……暗器などがいざという時に役にたつ。 最後に背嚢の袖に主武器であるブロードソードを固定する。 「それでは出発しますか」 他のひと達も食糧は多めに確保している。 元々、王国の難民なので皆、食糧のありがたさは痛感しているため。 自分だけ地図を持たされている。 これによると、国境を跨ぐ街道は現在、両国によって封鎖されている。 森の中をかき分けていく方法もあるが、おそらく道に迷う。 そのため、海岸沿いから回り込むことにした。 3日かけて、海岸そばの森の中を進んでいく。 「──ッ!?」 先頭を歩く細身の目に隈が深く刻まれた男、ジェイドが手を振った。 あらかじめ決めていた通りの合図だった。 今のは「音を立てずにその場で待機」。 皆、その場でゆっくりと音を立てないように気をつけながら屈みこむ。 高さが腰くらいはある草むらなので、屈めばほとんど見えない。 前方に人影が見え始めた。 レッドテラ帝国の歩哨がふたり。 砂浜から森の中へ引き返すところのようだ。 幸いこちらに気が付いておらず、談笑しながら前を通過していった。 ゆっくりと頭の中で数字を百まで数える。 ジェイドの合図を受け、立ち上がる。 なるべく音を立てないように気をつけながら前へ進む。 「そこ、足元に気をつけろ」 ジェイドが指差した場所をよく見てみる。 すると、草の色と同色になるよう緑色に染めたロープが横に張られていた。 踏むと、罠か音が鳴る仕組みになっている? 触れないように跨いで先に進む。 このジェイドという男、神経質でとても疑り深い。 だが、こういう場では実に頼もしい。 しっかり仕事をしてくれる。
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