凶漢叛徒

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『カラカラカラ!』 鳴子が左右で鳴りだした。 見ると、戦士風の男、ビラルクが思いきり、ロープに引っかかっていた。 今のはワザとじゃ? でもそんなことを言っていられない。 全員、立ち上がり、駆け出す。 「ハァハァ……」 最初に息を切らし始めたのは、侍祭のセレ・リードマン。 彼女は太陽と月の神「ルーラー」を信仰者。 奇跡も少しは使えるようだが、司祭ほどではないらしい。 意外だったのは、彼女の姉ポメラ・リードマン。 魔法使いなので、魔術の研究ばかりしていそうな印象しかない。 運動は苦手だろうと勝手に思い込んでいた。 だが、全然、息を乱さずついてきている。 「うぐぅ……」 「くそっ!?」 先頭を走るジェイドが罠を踏み抜いてしまった。 両側から矢が飛んできて、ジェイドと自分に矢が刺さった。 自分は肩でジェイドは首……。 「止まるな!」 他の3人に指示を出す。 ジェイドはもう手後れ。 ここで立ち止まっては全滅する恐れさえある。 だが、罠はこれだけではなかった。 「あぁぁ、がぁっ!」 ポメラまで罠の餌食になった。 木板が地面から跳ね上がる。 先を尖らせた木の枝が無数についていて、ポメラを串刺しにした。 それでも止まる訳にはいかない。 泣き叫ぶセレの腕を掴んで無理やりその場を離れる。 逃げている途中に背後から追っ手の気配を感じた。 だが、罠のあった場所からすぐに移動したのがよかった。 はやく行動に移せたお陰で、なんとか追っ手を振り切ることができた。 その夜、セレに治癒魔法を施してもらった。 だが運の悪いことに矢に毒が塗ってあった。 彼女は解毒の魔法はまだ使えないとのこと。 ありったけの魔法と回復薬を注ぎ込んでもらう。 だが身体から力がどんどん抜け、弱っていく一方。 「きゃぁぁぁぁぁぁ!」 くそ、こいつ。 ビラルク。無表情でほとんどしゃべらない男。 何を考えているか、わからなかったが、こんなヤツだったとは……。 治癒魔法を限界まで使って意識を失いかけていたセレを襲おうとした。 止めるべく起き上がろうとしたら、蹴り倒されて唾を吐きかけられた。 茶色がかった不気味な歯を覗かせ自分を見下ろしている。 ──よしわかった。 次はこうはいかない(・・・・・・・)。 小瓶の栓を抜いて、中のどろりとした液体を一気に飲み干す。 自害用の毒薬は効果覿面。 一瞬で意識を失った……。
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