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「いいか! 逃亡したら家族、親戚まで全員処刑する!」
馬を駆る旗を背負った騎兵の号令。
先ほど聞いたはずだが、夢でも見ていたのか?
それともまさか、こちらが夢?
いや、夢じゃない。
ものすごい勢いで迫る敵歩兵。
そして笑みを浮かべた兵士のひとりが迫る。
木の棒に尖った石を結んだだけの槍を突き出す。
だが、あっさりと剣で叩き折られ、体当たりを受け、地面へ転がった。
背中を打った痛みで、これが夢じゃないと確信した。
そして命を奪われる。
後ろを向いているので、誰が自分の首をはねたのかは分からない。
「いいか! 逃亡したら家族、親戚まで全員処刑する!」
3回目の号令を聞く。
これで、ようやく自分が少し前に死に戻っていることに気が付いた。
だが、結果は同じ。
笑っている敵歩兵の剣で槍を折られ、体当たりをもらう。
──はずだったが、無茶苦茶に振り回した右拳が笑っている男に当たった。
だが、それだけだった……。
拳が届いたのに男は笑みを絶やさない。
男の持つ剣が、自分の腹に刺さっているのを他人事のように見下ろす。
意識が無くなっていくなかで、笑っている男が剣を引き抜くのが見えた。
剣を振り下ろされたのが、最期の光景として目に焼き付いた。
4回目、勢いだけで突き出していた槍を叩き折られないよう工夫する。
刺すと見せかけて、一度引っ込めてもう一度突き出す。
だが、それでも槍を叩き折られて、腕を失い、首を狙われた。
5回目、敵兵が殺到する前に地面の土を左手に隠し持つ。
槍を囮にして、土をかけて目つぶしをしようとした。
だが、笑っている男は軽くよけて、剣を突き出してきて首を刺された。
6回目は着ていた厚手の服の袖を切り裂いて左手に巻きつける。
これで相手の剣を受けようと考えた。
その結果、腕は切り落とされずに済んだ。
だが、剣圧が強すぎて、一撃で左腕の骨を折られた。
そのまま返す刃で袈裟切りにされて終わった。
7回目……。
なんども同じ光景を見ているので、だいぶ落ち着いてきた。
もしかして相手が悪い?
あの笑っている男は明らかに他の敵歩兵より動きが速くて強い。
「なあ、場所を変わってくれないか?」
「馬鹿、少しでも動いたら、指揮官さまに首をはねられるぞ!」
左右に立っている両方の兵士に相談した。
だが、どちらも断られてしまい。6回目とほぼ同じ死に方をした。
「交替してくれたら、この戦いが終わったらアンタに夜食をやるよ」
「ああん? なんで、そこまでして場所を変わりたいんだ?」
「左のヤツの息が臭いんだよ、なあ、頼むよ」
左側の男に聞かれないよう小声で話して疑っている男を説得する。
その結果、先ほどと違って一列右側へ移動できた。
配給は1日に1食、ほぼ水のような粥を1杯しかもらえない。
だが、それでも飢え死にしなくて済む。
それをやると言われたら、ほとんどの兵士がその提案に飛びつくと思う。
「ぐへぇ!」
申し訳ない。
自分と列を交替した男が、槍を叩き折られて、首を飛ばされた。
やっぱり笑っている男が異常に強い。
こちらの相手は、剣を振り下ろす態勢が崩れている。
振り下ろす剣も少し遅く感じた。
だからなのか正確にその男の首を槍で突けた。
血しぶきが顔に飛び散るが、それどころではない。
相手の持っていた剣を奪ったところで、左隣のあの敵歩兵と目が合った。
結局、しっかりした造りの剣を手にしても、振るったことがない。
剣の重さに振り回されている間に笑っている男に殺されてしまった。
8回目、9回目はだいたい同じ結末を辿る。
右側の敵兵を倒し、笑う男と相対して、簡単に競り負ける。
何度くり返しても真っ向からの勝負では同じ結末を迎えてしまう。
10回目、右側の敵兵の剣を左手をくるんだ布で受け止める。
だが、すぐに反撃をしない。
目の前の敵兵よりもまず先に仕留めなければならないのは……。
こちらにまだ気づいていなかった笑っている男の左眼を槍でえぐった。
初めて笑っている男の笑顔が消えた。
だが、正面の男と戦っている間に後ろから背中を誰かに刺されてしまった。
11回目……。
いつものように右の男と立ち位置を交渉して替えてもらう。
そこから左の笑っている男の左眼を奪うと、意外な出来事が起きた。
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