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「あっ……あっ……」
「それで、この娘をどうするんだ?」
言葉が話せないのか?
それとも久しぶりすぎて言葉が出ないのか……。
怯えた様子で、か細い声が口から漏れている。
ジェイドから方針を問われた。
任務の内容は祈祷者の抹殺。
この場でこの女の子を斬ってしまえば任務達成となる。
だけど……。
彼女の姿は、痩せこけた身体が風に揺れる枯れ木のよう。
頬はこけ、目は深く窪んでいる。
肌は青白く、骨と皮だけで生気を感じさせない。
──無理だ。
任務であろうと素直には従えない。
「この子を連れ帰るのが任務です」
嘘をついた。
連れ帰った後、彼女は殺され、自分は処罰を受けるかもしれない。
だが、この場で何の罪もない不幸な娘を殺すなんてできそうもない。
「それじゃ早く移動しましょう。ここは危険だわ」
ポメラの言う通り、ここは大変危険だ。
周囲をぐるりと細い吊り橋で支えられている家。
ここから落ちたら30Mはあるので、まず助からない。
来た方向とは反対方向の吊り橋を渡る。
渡り終わると同時に円形の窪みの対面に村長たちの姿が見えた。
そこから斜面を無理やりまっすぐ降りる。
少女は自分が背負っている。
彼女の痩せ衰えた足では満足に山を下りるのもままならない。
下山するこちらを追いかけてきたが、10人くらいだった。
まだ満身創痍なのかも……ポメラの魔法で遠くから狙い撃って全員倒した。
追っ手は最後まで弓を射かけてこなかった。
おそらく少女に当たるのを恐れたのかも。
なんとか逃げ延びて、森の中へ潜むことができた。
「名前を教えてもらえるかな?」
ホントに話せないのかな?
まだ怯えた目をしている。
相手を刺激しないよう落ち着いた声で訊ねた。
「ニウ……ニウ・コトン」
彼女の初めて口にした言葉は自分の名前だった。
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