戦雲急告

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戦雲急告

「私はポメラ、こっちは妹のセレ」 「ニウさん、よろしくお願いします」 ポメラとセレが、ニウへ挨拶をしている。 ジェイドはつまらなさそうな顔のまま、声をかける。 「んなことより、とっととズラかるぞ!」 ジェイドが危惧するのも無理もない。 ここはいわば敵地の奥深く。危険以外の何ものでもない。 ここからジューヴォ共和国へ帰還するためには……。 ゲイドル火山の西側にいるので、東に向かう必要がある。 もう一度、ゲイドル火山を登るのは危険すぎる。 なので、北回りか南回りかのどちらかを選ばなければならない。。 比較的、安全そうなのは南回り。 南に向かえば海岸線が見えてくるはずなので、迷うことはない。 ただ、ひとつ問題があるとすれば、ビラルクと海岸付近にいる帝国兵。 彼らが、あのまま海岸から数百(メトル)の範囲にいる可能性が高い。 一方、北回りは、内陸部が森に覆われていて地形がわからない。 ジューヴォ共和国でもらった地図にも詳しい地形は描かれていない。 それに帝国の帝都がある方向。 もしかしたら、帝国兵がありこちにいる可能性だってある。 やはり南回りを選ぶ。 はっきりしない北側よりは地形や方角が確実な南回りの方がいい。 ゲイドル山を大きく迂回する形になった。 そのため、海岸線が見える頃には日が沈んでいた。 「サオン、ニウさんを連れて帰れば任務は達成なの?」 「どういうこと?」 「別に任務って、ひとつとは限らないじゃない」 ポメラの質問に対して意味がわからず聞き返してしまった。 言い方を変えてもらって、ようやく質問の趣旨が理解できた。 たしかに。 彼女を抹殺するのが本来の任務だが、連れ帰ると嘘をついた状態。 他に自分が任務を受けている可能性は十分にある、と思ったらしい。 でも、なんで今更そんなことを気にするんだろう? 「彼女を使って、なにか儀式でもするの?」 「いや……うん、やっぱり何も答えられない」 ポメラは、ここに来るまでにニウを質問攻めにあわせていた。 彼女の返事の中には例の祈祷を行っていたことも含まれている。 下手に答えたら自分が嘘をついていることがバレるかもしれない。 余計なことは言わない方がいい。 嘘に嘘を重ねるとどこかで必ず綻びができてしまう。 この時、不意に視線を感じて振り向くとジェイドが目を逸らした。 気のせい、かな? いや……今たしかにコチラを見ていた!? 夕食は火が使えないため、燻製と乾物で済ませる。 ニウは勢いよく食べ始めた。 だが、急に取り込んだ食べ物を胃が受け付けず、吐き戻していた。 朝まで交替で不寝番(ねずばん)をしたが、無事、朝を迎えた。
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