戦雲急告

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「まあ、わかっちゃいると思うが」 まだ何も聞いていないのにジェイドが自分から話し出した。 「俺はカルテア王女側の人間だ」 カルテア王女を擁立し、キサ王国の再興するための最大の障害。 それが反王国派と呼ばれる勢力。 帝国に身柄を押さえられている現国王ファレンティウス13世。 まもなく処刑される現国王は歴代、稀に見る暗君だった。 そのせいで国は乱れに乱れて、他国からの軍事介入を許す結果となった。 反王国派は元々、キサ王国の人間。 だが、国は完全に滅ぶべきという思想の下、動いている。 国王も国王ならその息子ふたりもまた評判がすこぶる悪かった。 兄弟で仲が悪く、傲慢で身侭なその振る舞いは広く知られていた。 彼ら反王国派の心情は分からなくはない。 だが、彼らは幽閉されていたカルテア王女のことを知らない。 あの燃えるような眼差しは、強い意志の固さを物語っている。 生まれてこの方、あんな目をしている人に初めて会った。 まあ、ちょっと憧れている、というか好意めいた感情がなくもない。 もちろん、分はわきまえている。 あくまで憧憬の存在。 敬慕しているだけであり、恋い慕っているわけではない。 彼女がキサ王国を建て直してくれるなら協力したい。 やはり生まれた国が無くなるのは寂しいし、期待が持てる。 ただ、自分がどれくらい貢献できるのかは、また別の話だが。 そんなカルテア王女に与する者がいても何ら不思議ではない。 ジェイドは包み隠さず全てを教えてくれた。 彼は元々、キサ王国の諜報機関で働く諜報員だったそうだ。 前国王ファレンティウス12世が組織した機関で表向きは存在しない。 「俺の使命はサオン、お前らの目付け役だ」 彼もまた任務の内容は聞かされていなかったそうだ。 彼の役目は、他の面子を監視すること。 反王国派や敵国の間者が紛れている可能性があったためだという。 でも、まさかその両方が紛れていたとは想像していなかっただろう。 もうひとつが、自分の行動を見張ること。 任務の内容を漏洩させたり、任務を放棄しないか監視していたそうだ。 「俺への命令はそれだけだ。それ以上のことは聞かん」 薄々、気づいているのかもしれない。 任務の本当の目的を……。
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