戦雲急告

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元仲間がいつ襲ってくるかと怯えながら移動した。 だが、幸いジューヴォ共和国首都クレイピアへ問題なく到着できた。 「ほう、その者が祈祷術者か」 「なぜ連れ帰ったんです?」 「それは……」 首都クレイピアの一角にある新たに解放された居留地。 難民避難所から続々とこの区画へ難民たちが移動してきている。 居留地の中でも特に立派な建物の中で任務の報告をしていた。 シンバ将軍が物珍しそうな目でニウを見る。 カルテア王女は固い表情のまま、自分へ回答を求めた。 「飢えに苦しんでいる者を屠ることは、できませんでした」 「それで連れ帰ったと?」 「──はい」 「おいおい、マジか?」 任務の内容を聞かされていなかったジェイドが片手を額に被せている。 それが演技なのか、本当に気が付いていなかったのかは彼にしかわからない。 シンバ将軍が椅子をうしろへ引いて立ち上がった。 「シンバ将軍! お待ちください」 何かを言いかけたシンバ将軍を見てカルテア王女も立ち上がる。 「この者は……サオンはけっして違背したわけではないのです」 だから、罰を与えるのは止めて欲しいと懇願した。 「カルテア王女よ、勘違いするでない」 シンバ将軍は顔をにやけさせながら、自分へ告げた。 「なかなか見どころのある男だ」 たしかに任務は祈祷者の抹殺。しかし……。 こんな痩せこけた少女だったとは、共和国も想定外だったそうだ。 「自分で考えて臨機応変に動ける者はそうはいない」 シンバ将軍は巨体を揺らして、自分へ近づいてきた。 そして、大きくて武骨な手で笑いながら、自分の背中を叩いた。 あいたたっ……。 背中を加減して叩かれているだけなのに身体の芯まで響くほど重い。 「よし、キサ王国の意志、この第六将軍シンバがしかと見届けた」 ジューヴォ共和国に君主はおらず、6人の将軍が国を統治している。 その中でも、特にその名を他国に轟かせる英傑シンバ将軍が吠えた。 これでキサ暫定国家を正式に公表できる。 それは同時にカルテア王女の存在を世に知らしめるということでもある。 それと並行して正式にジューヴォ共和国との同盟を結ぶことになった。 それから3ヵ月ほど戦の準備を進めた。 同盟を発表してすぐにゲイドル火山が噴火した。 噴煙は天高く衝きあげ、ジューヴォ共和国まで火山灰が降り注いだ。 そのお陰で、ジューヴォ共和国の西側の脅威は無くなった。 同盟軍を立ち上げ、キサ王国の領土を取り戻すと帝国へ宣戦布告を終えた。 同盟軍とは名ばかりで、その内訳はジューヴォ共和国が9割を占める。 ただ3ヵ月前よりは幾分かマシになってはいる。 100人にも満たなかったキサ王国軍だったが、今は1,000人程の規模。 その内、純然たる兵士は半分以下。 あの日、味わった忘れることのできない敗北戦。 寡兵であるこのキサ王国軍では帝国軍にふたたび蹂躙されて終わる。 でもそれはキサ王国単独だった場合の話。 今回は、屈強なジューヴォ共和国軍が共に戦ってくれる。 その身体能力は人族の比ではない獣人族(テラノイド)。 数こそ少ないが、精霊使いである森の住人長耳族(エルフ)。 同じく数は少ないが、頑強で剛力、全員が屈強な戦士である鉱人族(ドワーフ)。 さらに大陸の中でも指折りの名将シンバ将軍が指揮を執る。 彼らと一緒に戦えば、きっと勝てる。 第3大陸暦101年8月……後世の歴史書に刻まれる「フェン・ロー平原の戦い」が始まろうとしていた。
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