死地行軍

4/8

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「マロ、こんなところにおったのか」 声が聞こえた。 だけど声の主がどこにもいない。 白猫を見ると、見上げていたので、つられてその方向を見上げた。 鳥……だが、濃い緑色をしている。 よく見ると、足が3本、目が4つもある。 体は大型犬くらいの大きさがあるので、鷹や鷲の仲間かもしれない。 魔物……ではなさそう。 目のなかに知性を感じる。 なんだろう……見たことも聞いたこともない不思議な生き物。 「みゃーう」 「ほう、その者がか?」 大型の鳥がしゃべった!? 白猫が鳴くと、4つの目がこちらを見下ろした。 「マロを助けた礼をやろう」 なにか望みがあるか? と鳥に聞かれた。 「あなたは誰ですか?」と質問しようとした。 だが質問する前に「この猫の飼い主だ」と返事があった。 頭のなかを読まれていますか? と考えたら「そうだ」と返ってきた。 これ以上は余計な詮索をしない方がいい。 なんとなく分かってしまったから……。 それにしても望みを叶えてくれる? もし望みが叶うのであれば……。 まずなにより死ぬのが怖い。これから死地へ向かう予定だし。 叶うならば、生きながらえて、人生をまっとうしたかった。 働きながらお金を貯めて、小さくてもいいから家を建てたかった。 畑を耕して、麦や野菜を育てて、妻子に恵まれたらもっと幸せだ。 でも、死んでしまったら何もできない。 だから、死にたくない。少なくとも今は。 あと他には、思う存分、色んなものをたくさん食べたい。 この国は……大陸はあまりにも戦争を長くやり過ぎた。 農民は殺され、畑は荒らされ、森は燃やされる。 娘はさらわれ、略奪の限りを尽くされた地は、不毛の大地へと変わった。 だから何度でもお腹いっぱいになるまで食べたい。 できるなら、そのいっぱい食べられる幸せを他の皆にも分けてあげたい。 だけど、それは無理な話。 滅亡の瀬戸際にいるキサ王国以外の4国はその国力はほとんど差がないと聞く。 これまで何十、何百回と騙し騙されるのを繰り返して今日(こんにち)まで至った歴史がある。 そのため、4国間での同盟はまずあり得ない。 だから、国が一度に大きく傾くことはない。 その推測から導き出されるのは、戦争はまだまだ続くという残酷な答え。 「なるほど……死にたくない。まわりも含めて食事を豊かにしたい、だな?」 え……こんな無茶苦茶な願いが叶うの? 「願いを叶えた。あとは其方の努力次第。また会うのを楽しみにしておこう」 ──というやけに長い白昼夢をみた。 気が付くと、森のなかでひとりポツンと立っていた。 いかん、あまりにも空腹すぎて立ったまま気を失っていたかも。 いつの間にか寝てしまったんだろう? でも、先ほどの猫と大きな鳥は本当に夢なのか? なぜかというと。 隠し持っていたパンが無くな(・・・・・・)っていたから(・・・・・・)。 仮にもし本当に猫と鳥が夢ではなく、願いを叶えてくれる存在ならば。 もしかしたら、絶望的な自分の運命を変えられるのかもしれない……。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加