死地行軍

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101回目。 まともに正面からぶつかったら、やはり格上だった。 どんなにレベルが上がっても、別格の存在。でも……。 最初の頃よりは、差が縮まっている。 問題は武器の差が大きいこと。 木の棒に尖った石をくくりつけただけの槍。 対するは鉄製の剣、武器だけをとっても、ずいぶんと差が大きい。 加えて剣の腕も一流だ。 なぜ最前線の歩兵なんかに紛れているのか、不思議でしょうがない。 それから100回以上は試行錯誤を繰り返した。 213回目。 槍の穂先を地面にすれすれまで下げて、笑っている男を迎え撃つ。 左右はすでに切り結んでいるが、目の前の兵士は足を止めた。 気づかれたか? いや、異質な構えを見て警戒しているだけだと思う。 すこし様子を見ていたが、強行することに決めたようだ。 穂先を足で踏んで、動かなくしようと左足が動いた。 そうはさせじと穂先を引いて、跳ね上げる。 笑っている男はその動きを見切っていた。 当たり前のように剣を横に薙いで、槍先を切り落とす。 だが、土を目にかけられたのは予想外だったようだ。 視線を下に向けさせてからのある種飛び道具。 うまく目に入ってようで、動きが一瞬止まる。 散々、試行錯誤して生まれた刹那の好機……。 槍の穂先は草で隠して見せていなかった。 実は尖った石を外しておいた。 その石を懐から取り出し、右手で握る。 男が見せた一瞬の隙を衝き、首に尖った石を突き刺し倒した。 ようやく勝てた。 そこから左右の状況を見つつ左方向へと強引に敵兵を倒しながら進む。 ──抜けた。 はじめて混戦から抜け出せた。 ひとり抜け出たことに気が付き、余っていた敵兵が数人ほど殺到する。 前後左右に自由に動けるなら余裕。 後ろに退きながら囲まれないようにして一対一の構図を作る。 複数を相手しながらも、戦況を確認する。 これはまずい……今、はっきりと分かった。 戦争にすらなっていない。 眼前で、ただの一方的な蹂躙劇が映し出されている。 この中で生き残ろうとしていたのが、そもそも無理な話だった。 目の前の男達を切り伏せながら、すばやく背後をみる。 あの林の中へ逃げ込めば、助かる。 目の前に群がる兵士をあっさりとは倒さない。 簡単に倒してしまうと悪目立ちする。 そうなると敵兵がより数を揃えてこちらへ来てしまう。 「ぬ?」 背中に痛みが走る。 振り向くと無数の矢が自分へ迫っていた。
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