魔導推究

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容疑者のトネルダはその後、非番だったようだ。 兵士詰め所で私服に着替えて出てきた。 彼の行動はポメラの使い魔である単眼蝙蝠(アーリマン)が上空から監視している。 ポペイの街の陸上部にある酒場へふらりと入って行った。 酒場の店の中が気になる。 だが、ゾロゾロと酒場に入っていったら目立つので、トネルダにすぐにバレる。 なにより酒の飲める年には見えない者や聖職者もいる。 メイメイの提案により、存在感が薄く成人しているリャムを送ることになった。 しばらく離れたところで待っていると、女性がひとり出てきた。 その後、トネルダが酒場から出てきたので、建物の陰に身を潜めた。 女性の後を尾け始めた……。 2重尾行は相手も用心しているはず、なので単眼蝙蝠(アーリマン)で監視する。 その場で待機していると、酒場からリャムが出てきて店内での出来事を共有した。 トネルダは、ひとりで酒も飲まずに物色するように店内を見回していたそうだ。 リャムは酒場の主人に少しお金を渡して情報を引き出した。 酒場の主人によるとトネルダは、この酒場によく顔を出していたそうだ。 それも1か月近く前から……。 あと、頻繁に貴族や金持ちが店内にいないかと聞いて回っていたらしい。 酒を飲まない大男なんて珍しいので、間違いないとのこと。 女性を尾行しているのは、攫うためだろう……。 勘付かれない程度に距離を保ち、後を尾けた。 女性は海上部側へと歩いているので、貴族か金持ちのどちらかだろう。 海上部側は外出禁止令が出されているので、人気(ひとけ)がまったくない。 「トネルダが動いた!」 左目を単眼蝙蝠(アーリマン)と共有しているポメラが叫ぶ。 5軒先の通路にいると聞いて、真っ先に動いた。 この中で自分がいちばん足が速いので、なんとかしなければ。 「た、助けてぇぇぇ!」 あれは……。 どこかで見覚えが? トネルダが男性を追いかけている場面に出くわした。 女性はその横でへたり込んでいる。 男性はトネルダから背を向けて、こちらに走ってくるところだった。 「動くな!」 「どけ、邪魔だ!?」 制止するよう呼びかけたが、聞く耳を持たない。 逆に脅されたが、これしきで怯えることはない。 男性を庇い、前に出る。 怒り狂ったトネルダが吠えながら拳を振るった。 ──まったく問題ない。 トネルダの拳を受け止め、下顎に掌底を入れて気絶させる。 中隊長級の相手でも、まったく負ける気がしなかった。 もしかして、今なら帝国の大将カぺルマンとも渡り合えるんじゃ? 「サオン君!」 メイメイたちが、ようやく建物の角を曲がって、姿を見せた。 「もう終わったよ」 「違うアル、後ろのソイツ(・・・・・・)が犯人ネ!」 え……。 右腕にチクリと痛みが走る。 腕を捻って見たら、小さな羽のついた針が刺さっていた。 意識が急に薄れていく……。
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