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「サ……さま……サオン様!」
「──んっ!?」
再演じゃない。
頭がすごく重い。
右腕に小さな針が刺さって、それからの記憶がない。
目を開けると、セレの顔がある。
近いな……。
自分を見下ろしている。
なんでだっけ?
「──わぁぁぁぁっ!」
飛び跳ねるように起きた。
セレに膝枕されていたのか……。
魔法で癒してくれたに違いないが、膝枕をする必要なんてあるのか?
頭のうしろにまだ柔らかい感触が残っている。
今、顔が真っ赤になっているかもしれない。
顔が火で炙られたように熱い。
「うわっ……圏外に出ちゃった」
「しょうがないアルね、サオン君が油断しちゃうから」
うっ、痛いところを……。
先ほどの男をポメラが単眼蝙蝠で追跡したそうだ。
だが、距離が離れすぎたため、使い魔の制御を失ってしまったらしい。
「うっ……メイ様、その男が!」
「起きたアルか?」
トネルダ中隊長が目を覚ました。
ヒドイことをしてしまったので事情を説明し、とにかく謝る。
「そういうことか……気にしないでくれ」
「それで、なんであんな紛らわしいことをしてたアルか?」
許してもらえた。
続けてメイメイがトネルダ中隊長を問い質す。
トネルダ隊長は、失踪事件が起きてすぐにあの酒場に行きついたそうだ。
酒場から出たところを狙われている。
客、もしくは店の関係者に犯人の仲間がいる可能性が高い。
だが、調査隊として正面から乗り込んでも、シラを切られるだけ。
そう考えて、非番の時に私服姿で貴族や金持ちを酒場から尾行していたそうだ。
1か月近く続けて、ようやく犯人が女性を攫おうとしているのを発見した。
取り押さえようとしたら、自分が邪魔をしたそうだ。
それにしてもメイメイはなぜあの一瞬で男が犯人だと分かったのか?
自分もたしかに見覚えがあった。
日中にトネルダ隊長が怪しいと証言した男。
だけど、思い出すまでに少し時間がかかった。
それだけ顔になんの特徴もない、どこにでもいる普通の一般人に見えた。
「この海上都市ポペイでメイの顔を知っている人間は少ないアル」
自分は覚えていなかったが、「メイ様」と呼んだ時点で怪しいと見ていたそうだ。
そう言われたら、自分も先ほど僅かに違和感を覚えた。
この海上部の通路はすべて浮橋。
歩く分にはなにも不自由はない。
だが、走ったりすると大きく撓んで体勢を崩しやすい。
それなのに、あの男は軽々と移動していた。
今、思えば常人の動きではない。
女性を送り届けた後、ヤオヤオの屋敷へ戻り、休むことにした。
犯人を捕まえられなかった。
もうこのポペイの街から逃げ出した可能性が高い。
最大の好機を逃した自分達は翌日、ヤオヤオ皇女へ謁見し、事の顛末を報告した。
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