戦火再演

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戦火再演

「ひとつ聞いてもよろしいですか?」 メイメイが姉への報告を終えた後、手を挙げる。 ヤオヤオ皇女から発言する許可をもらったので、気になることを伝えた。 「この辺りに怪しい船か、大きな船が停泊できる島はありますか?」 例の逃げられた男がやけに浮橋の上で軽やかに動いていた。 男の顔はトネルダ中隊長も覚えがないという。 あと、定期的に失踪者が出るということは、どこかにアジトがあるはず。 ポペイの街中にアジトがないから、兵士たちは探し当てられないのでは? これらのことを踏まえると、身元の怪しい船や、近くの島が怪しいと考えた。 陸地側の森の中というのも考えられる。 だが、海上側で攫って、街の中を陸地側へ横断するのはかなり危険が高いはず。 なので、海の方がより怪しいので、海から先に調べた方が良い。 「このポペイは三日月半島の礁湖の中にあります」 半島と呼ばれているが、陸続きではなく、大きく張り出している環礁。 ポペイは環礁に囲まれていて、外海の波は内側にほとんど入ってこない。 だが、座礁しやすいため、ポペイにはいくつか「海の道」があるそうだ。 そのうちのひとつが、大きな島に繋がっているとのこと。 その島は昔からよく海賊の住処になるらしい。 なので、数年に1回は討伐隊を派遣するそうだが……。 この数か月、商船を襲う海賊の被害がまったく起きていないそうだ。 未遂も含めると月に1回か2回くらいは被害が起きるのが普通。 略奪行為が起きないので、この海域からどこかへ移動したと考えていたようだ。 「トネルダ隊長。見てきてもらえます~?」 「はっ!」 「メイ達も連れて行くアル」 ヤオヤオ皇女がトネルダ中隊長へ様子を見に行くよう指示を出す。 すかさずメイメイが姉に希望を伝えた。 「あら、大丈夫なの~? 怪我でもしたらお父さまに私が叱られるわ~」 「大丈夫ヨ、メイにはこのサオン君がついているネ!」 「サオン?」 メイメイが胸を張って答えてくれたが、ヤオヤオ皇女が首を傾げる。 「サオン君を知っているアルか?」 「いえ……ただ」 ホン皇国の最北端。 キューロビア連邦との国境近くにシーツ―という城塞都市があるそうだ。 そこにサオンという長年、連邦の侵攻を食い止めた優秀な指揮官がいたそうだ。 剣の腕も超一流。 おまけに内政にも力を入れる才徳兼備の人で、領民にとても慕われていたという。 そんな彼に憧れ、シーツ―では自分の子にサオンと名前をつけるのが当時流行したそうだ。 だが、その有能な指揮官も10数年前に亡くなったという。 戦争や病気で命を落としたわけではない。 原因は外交交渉。 内容は、サオン指揮官の身柄と誘拐された人質の交換。 サオン指揮官は喜んで自分の身を連邦に差し出し、子ども達を取り返した。 だが、ひとりだけ戻らなかったという。 指揮官と同じサオンという名前の子ども。 「あなたに両親はいますの~?」 「いえ、孤児院で育ちましたが、その前のことはあまり……」 孤児院に行きつく前は、名前も覚えていない大人と一緒に旅をしていた。 幼すぎて記憶も曖昧だし、どこを回ったのかも覚えていない。 唯一、覚えているのは、その男性の頬に大きな傷があること。 キサ王国の王都にある養護施設に自分を預けたきり、一度も顔を見せなかった。 「まあ、シーツ―に行けば同じ名前の人が、たくさんいますけどね~」 そうなんだ。 いつか行ってみようかな? 自分の故郷かもしれないし……。 でも今は先に片付けることがある。 「それでは今から準備次第、出発します」 トネルダ隊長からそう伝えられた。 急ではあるが、時間が経てば、より状況が悪くなるかもしれない。 外出用の荷物を取りに借りている部屋へ戻った。
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