孤城落日

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孤城落日

夢を見ている。 夢を夢だと認識できるのは、これで2度目。 夢の中には幼い頃の自分がいる。 自分の意思で身体は動かせない。ただ見ているだけ。 生まれ育った孤児院に初めて訪れた日。 年長の複数人の子と喧嘩になった。 まあ厳密には喧嘩とは言えない。 ただ一方的に痛めつけられた。 だが、いじめられたとは、今でもこれっぽっちも思っていない。 数に物を言わせて他者をいたぶるような連中にいじめられてたまるか! あれはあくまで喧嘩だった。 ただ殴られる回数がこちらの方が多いだけ。 そんな自分を助けてくれた子がいた。 結局、ふたりともボコボコにされた。 だけど、それ以来、彼とは無二の親友となった。 その親友は7歳の誕生日に他国へ引き取られていった。 孤児院のお使いで街へ買い物に出かけた際に変な噂を聞いた。 親友が向かった国は、子どもをさらい、兵士として育てていると……。 親友が今でも元気に過ごしていたらいいと今でもたまに彼を思い出す。 当時のキサ国は、そこまで貧しい国ではなかった。 1日に多くて2回も食事はもらえたし、服を寄付してくれる人もいた。 だけど、数年後に今の王様になってから、国は次第におかしくなっていった。 現国王は、国政を顧みずに芸術と色事に溺れ、諫める配下を遠ざけた。 挙句に国民から嫌われている奸臣を宰相に据えて、野放しにしてしまった。 もともと、キサ王国はこのアルヴニカ大陸でもっとも小国といわれている。 先の30年近くは、先王のおかげで北の大国キューロビア連邦の庇護下にいた。 そのお陰で、小国であるにもかかわらず、これまで存続できていた。 だが、王が代わり、上納金を納められなくなったキサ王国を連邦は見放した。 それからたった数年で、国政に陰りが見え始め、貧しい国へと落ちぶれていった。 王国を出ていく人が次第に増えていく。 混迷する国の方針に遂に滅亡への秒読みが始まった。 いっそ他国に現王家を滅ぼしてもらった方がいい。 そういった過激な発言を市中で聞くことも増えてきた。 元々、キサ王国には3年間の徴兵制度がある。 だが、緊急徴兵により兵役を終えた人も今回、無理やり徴集された。 徴兵に応じないものは、本人はもとより家族、親族まで死刑に処すという。 孤児院育ち自分は、孤児院が人質のようなもの。 院長先生やまだ幼い下の子達……。 正直、孤児院の子達がいなければ逃げ出したかった。 今日、林の中へ逃げ込んだ時にみたが、自軍は確実に全滅した。 あの戦いで生き残ったのはたぶん自分ひとり。 だから見咎めて孤児院のみんなに被害が及ぶことはないと思うけど……。 これまでの出来事が一気に夢として出てきた。 その後、強烈な吐き気を催し、目が覚めた。
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