正敵邪正

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「そこまでだ!」 ようやくシンバ将軍のそばまで来れた。 そのまま将軍との間に割って入る。 ハイレゾも斬り合いに加わることができる位置で待機している。 顔が見えない。 3人とも化け物級の手練れ。 少しでも気を抜いたら一瞬でやられてしまう。 「キサ王国小隊長サオンだ。そちらの名を名乗ってもらおう」 「サ……オン?」 一度、周囲も含めて冷静になるべきだ。 (いかずち)のような鋭い奇襲をかけてきた相手に名を求める。 白騎士の様子が急におかしくなった。 頭を抱えて苦しみ出す。 「時間切れだ。兄者」 「そうだな、弟よ」 赤騎士のふたりが急に動いた。 ひとりが白騎士を肩に担いで、もうひとりが離脱用の道を作る。 「誰も追ってはならん」 シンバ将軍が背後から直属の部下たちへ指示を出す。 左肩は大丈夫なのかと心配で振り返ると左目を押さえていた。 頬を伝って血が地面へ滴り落ちている。 いつ目をやられた?  全然見えなかった……。 本陣から抜け出した3人は笑う兵達をそのままに退却していった。 もし、あのまま戦っていたら勝てただろうか? 将軍の部下たちが笑う兵達を全員、倒した。 右翼側の戦況は、ほぼ互角。 連邦兵の邪魔が入らなければ、戦況をもっと優位に運べたはずなのに。 問題は左翼側の方。 左翼は完全に押されている。 遠目からでも指揮系統が機能しているとは思えない惨状だった。 こちらと同様に連邦の刺客が左翼の指揮官ゴードに送り込まれたと見るべき。 「サオン」 「はい」 シンバ将軍から軽く礼を言われ、すぐに直接指示を受けた。 前線にまだ残っているキサ王国兵を率いて撤退するようにとのこと。 ただし、撤退はジューヴォ共和国もキサ王国も同時に行わなければならない。 どちらかが、少しでもズレてしまうと敵に追撃の好機を与えてしまう。 だけど問題がある。 カルテア王女は、後方で待機しているので前線へ合図を出せない。 指示を出す前に右翼本陣が急襲されたので、前線の兵が混乱している。 指揮系統が混乱した場合は隣の小隊に合わせるよう指示は受けていた。 だけど、戦いが激化しており、小隊では動けていないのがわかる。 「小隊長サオンです。小隊長はいますか?」 「ああっ? 知らねーよ。それよりお前も戦えよ」 思っていた通り、だいぶ混乱している。 この分だと、この辺りの小隊長は命を落としたのかもしれない。 ハイレゾ達傭兵部隊は先に待避する経路確保のため最後尾で待機している。 どうしたものかと悩んでいると、帝国兵が自分のところへ押し寄せてきた。 「げびゅぅっ!」 「ひ、ひぃぃぃぃ!?」 悪いが、帝国兵に構っている暇はない。 過剰なまでの演出を入れて派手に数人、斬り飛ばしてみせた。 それだけで、一帯の敵兵の動きが止まり、自分を凝視した。 そして、自軍の兵士たちもこちらに注目している。 これは使える!? 戦闘をしながら注目を集め、自軍の兵に伝言を頼んでいく。 衝突している最前線を強引に横断する。 それだけの強さが今の自分にはある。 お陰で帝国の勢いが若干弱まった気がする。 合図がきた!? 3本の音が鳴る矢。 中央軍から発せられたもので、確認と同時に計画を実行に移す。 「キサ王国軍、カルテア王女の名の下に退却!」 前線を横切りながら、周囲にどんどん伝言するように頼んだ言葉。 周囲の王国兵も大声で復唱し、戦場全体に伝播していく。 撤退が始まった。 あとは上手に逃げ切るだけ。
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