Gメンくんの攻防

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 本社からの報告書によると、今度、俺が担当するコンビニじゃ万引きが絶えないらしい。  周囲は緑が豊かな田舎で、開店した当初は、周囲の村人たちから重宝がられていたというのに、ここまで人間はさもしくなるものか。  店長によると、今朝も在庫をチェックすると、また商品が消えたという。  防犯カメラのモニターの再生ボタンを押したら……。  「なんじゃこれは!」と、思わず店長は声を上げた。  記録されておらず、どのカメラの画像も真っ黒だった。  電波を飛ばしてモニターに画像を記録させるタイプを使っているのが仇になり、ジャミング(妨害電波)を流されたら、画像が記録されず肝心の時間には真っ黒にしか記録されないのだ。  まずいことに、昨今では学生のスマホを使ったカンニングを防止するために、特殊な商品を扱う電気屋なら妨害電波を発生させる機械は誰でも購入することが出来てしまう。  さらに頭がいい奴はスマートホンで確認できる機能を悪用して、モニターのプログラムに干渉し、画像を改変するという手口を使うから、昨今は防犯カメラも頼りにならない。  「いくらモニターのパスワードを変更しても、相手はチームを組んで、狙った店を監視しているらしく、どの時間で変更しても、いつの間にか画像が消えているということが一度や二度じゃないんだよ」と、店長は嘆く。  いくら取り付けが簡単でも、有線のタイプでなければ防犯にならない。有線で画像を送るのなら外部からの干渉は不可能になるが、弱点があり、潜入されてコードを切られたら、それまでだ。  アルバイトを増やせばいいが、生憎、老人ばかりの農家で万引き犯を捕らえる人材がいない。  在庫をチェックしながら店長はつぶやいた。  「だったら、どうすればいいんだろうね?」  万引き犯は執拗に狙ってくる。なめて面白半分でやっているらしいのだ。  「もうグズグズ考えている余裕はない、本社に相談してみよう」と、店長は本社から派遣されるコンサルタント・マネージャを頼った。  定期的に各支店をめぐり、業務の相談、改善をチェックする役職で、各店舗の店長にとって頼れる相談役であり、売り上げをチェックするおっかない存在でもある。なんせ、彼らの判断で契約が打ち切られることだってあるからだ。まさにもろ刃の件なのだが、背に腹は代えられないという心境なのは本社側の俺でも理解できる。  店長からすれば、キャラメルひと箱だって貴重な売り上げだ。脱サラして商売するなんて命懸けだというのに、万引き犯は許すまじだ。  各店舗を総括するコンサルタント・マネージャーに店長は涙ながらに訴えかけた。「そもそもインスタントラーメンやアンパンを奪うのに、ここまで準備する意図が分からないんです。だいたい地域の利便性を考えたら、うちが営業している方がいいのに!」と、相談したが、コンサルタント・マネージャーからの言葉は冷たかった。  「しかし、現実には地域の利便性を無視して、万引き犯はやって来るんですから、あなたのサービスの提供に何か問題があったんじゃないですか? 接客態度が横柄だったとか、カスハラがあったとか?」と、訊かれて、「いえ、ていねいに接客していますし、一度も苦情を言われたことはありません」と、弁解したものの、「こんなケースは都会ではまず考えられません、村民が一丸となって万引きしてるようにしか思えませんよ。これは撤退も視野に入れて考えないといけませんね。そもそも防犯カメラの設備投資をケチったのが問題です」と、渋い顔だったらしい。  哀れ、こうなったら店長は蒼くなって立ち尽くすしかない。  「そ、そんな、定年退職金をはたいて開店したのに!」  うなだれる店長の肩をコンサルタント・マネージャーは優しく叩いて、「落ち着いてください。失望するのは早いですよ、まだ本社から見捨てられたわけじゃありません」と、励ました。   「えっ! それは? 何か対策があるんですか?」  「こちらから最後の切り札として助っ人を派遣しましょう。ただし手数料はかかりますよ」と、告げられて、店長は「わ、わかりました」と、首を縦に大きく振った。  で、本社から派遣されたのが、この俺、[Gメン君]と、いうわけだ。  早速、俺は店長の奥さんに変装して、接客業務も兼任することになった。そうやって万引き犯を待つという作戦だ。  田舎では、働く人数が限られているので、誰がアルバイターなのか情報がすぐ漏れてしまう。当然、万引き犯たちにこちらの情報は筒抜けだ。苦肉の策だが、相手が捕まるまでの期間、奥さんには家の中で閉じこもってもらうことにした。  それからは持久戦だ。万引き犯を待ち続けること十日間、時間だけがじりじりと過ぎて行く。  しかし万引きGメンの俺の意見を言わせてもらえば、この店の立地条件は悪くない。店内の雰囲気も明るく過ごしやすく、商品の飾りつけもよく考えられている。店長の狙い通り、林業が盛んな集落や、隣村からも利用客が軽トラックでやって来るなど、繁盛しており、立派に経営が成り立つ店だ。  ではコンサルタント・マネージャーが指摘した様に接客に問題があったんだろうか? 俺から言わせてもらえば、あのマネージャーの眼は節穴だ。店主の人柄もよく、地元によくなじんでいる様子で、何ら問題は考えられない。  (まじめに働くものが踏みにじられて、狡猾な奴らが搾取して嗤うとは……)理不尽な犯罪を前にして、俺は犯人を捕まえる決意を新たにした。  そして十一日目、明け方の四時が過ぎたころ、そいつはやって来た。 素早く、懐中にあんパンを入れて、素知らぬ顔で店の外へ出ようとするところで、俺は後ろから抱きついてやった。  「お金を払ってください!」  しなびたゴボウのような老人が「くそお! はなせ! はなせ! はーなーせ!」ヒョロヒョロに長い手足をばたつかしていたが、そんな悪あがきは通用しない。  店長は「よくやった! A1」と、俺をほめ、すぐに警察に連絡を入れた。  こうして問題は解決。  犯人はチームで動いており、老人の自供で、農業を引退した年寄りたちの犯行なのが判明した。  犯行理由は、なんと《暇つぶし》。  ゴボウみたいな老人は取調室で悪びれもせずに、こう警官たちに抗弁したらしい。  「若いうちは苦労せんと駄目じゃ! 恵まれとるんじゃ! この頃の若い奴らは!」  老人による犯罪が増加しているのを知っていたものの、その中二病的な行動に呆れてしまう。ここまで人間は駄目になったものか。  こうして俺は第三の店員。ナンバー3として今も、このコンビニで警備している。ちなみA1は通称だ。俺の名前にあたる正式番号はA1ー253716Eだ。  本社が推薦する、[ナンバー3、Gメン君]シリーズの警備、販売ロボットは人型で接客もそつなく果たす。  今や少子化問題が深刻化した日本で、労働者不足を補うのは外国人労働者ではなく俺の様なロボットなっている。                      了
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