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 光を感じて目を開けると、年月に磨かれた聖殿の壁画が、薄っぺらい再生炭素板の黄土色に変わっていた。  また、この夢。ファーシェはため息をついて毛布をたたむ。今は逃げられても、「選神の儀」はすぐに追いついてくる。ずっと今のままでいられたらいいのになんて、考えるだけでも無礼なんだろうか。一瞬目を閉じて、ゆっくりとそら豆色のカーテンを開けると、朝日に照らされた高層ビルの森が見えた。それらより頭一つ高い、石造りの尖塔がヒンメリア大聖殿。すみれ色の花の名を冠したそれは、学問を信仰するヴォルシュ派第一の聖地であり、美術をつかさどるアルファーシェを祀る。植物を模した石造りの天井を見上げて、はしゃいだ日を、懐かしく思い出す。あの頃は大好きだった。大聖殿でずっと暮らしていたかった。どうして、逃げてしまいたくなるのだろう。十七歳の誕生日からも、その日の決断からも、執拗に現れるあの夢と同じように追いついてくると知っているのに。
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