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「悪かったな。気分はどうだ?」
「黒岩警視正…。ご、ご迷惑を…。」
病室でぺこりと間取は頭を下げた。見合いなど慣れない場所で緊張していた上に、あんな爆弾発言をされ思考が停止した。冗談を真に受けて失態を演じてしまった恥ずかしさが、相手の顔を見させない。顔を深々下げたまま、またしても固まった間取だった。それでなくても、人の目を見て話すのは苦手だ。
「弥彦は俺の同期なんだが。お前、学生の頃にあいつの彼女を助けてやっただろう。」
また唐突に、黒岩が話しを振ってきた。
「え?」
「まぁ、俺も弥彦も、お前が覚えているとは思ってないから。安心しろ。」
「安心?」
間取は、やはり思い当たる事がないようでキョトンとしている。
「それはどうでもいいが、弥彦は、悪い奴じゃない。」
そう返事も待たずに言って、黒岩は病室をさっさと出て行ってしまった。
(どういうこと?これは見舞いなのか?詫びてる?)
混乱していると、今度は入れ替わるように弥彦が入って来た。
「悪かったね。気分はどう?念の為、検査するらしいから今日はここで泊まりになるそうだ。」
「ご迷惑をおかけしました。」
間取がぺこりと頭を下げて顔を上げると、さも可笑しそうに弥彦警視正が笑っていた。
「しかし、そんなに黒岩の事が嫌いだとは思わなかったよ。おかげで奴の慌てた顔を初めて見させてもらった。死神が狼狽えるとはね。礼を言うよ。食事は改めて誘うから。じゃあまた。」
「あっ!ちょっと…。」
間取の言葉を聞き終わる前に着信があったようで、弥彦は携帯を取り出しながらすっと行ってしまった。
(どいつもこいつも…。)
残されたものぐさな間取は、結局考えるのも面倒になって目を閉じたのだった。
了
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