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支店に移って、俺に課せられたのはSの獲得である。
『桃源郷』というロスに本社を置く世界有数の企業体が、公然と武器の輸出を行い、その一方で医療機関を作り人命救助をしているという。それこそ、ゆりかごから墓場までを商売にしている大企業。日本にも桃源郷が経営する巨大な病院がある。
数ヶ月前日本にある中国系の企業が狙われ、爆破された。日本国内でのテロ活動ということで、平和ボケしている日本人を震撼させた記憶も新しい。
今もそのテロの首謀者は、捕獲されていない。中国からの猛烈な批判に晒され日本警察の面目は、丸潰れである。
その軋轢の仲裁に入ったのが『桃源郷』だった。
桃源郷は以前から爆破された企業との取引があった。また犠牲者の中で巻き込まれて亡くなったのが、営業に来ていた桃源郷の社員だったことも関係するが、テロに関する情報を中国と『桃源郷』は共有していると外事は確信していた。
そこで『桃源郷』に出入りしている人物を、Sとして落とせという。それが今回のミッションなのである。
このミッションで俺の相棒となって指導してくれているのは、35歳で中堅の井口主任。面倒みは良いのだろうが、口の重い上に表情も薄い。美人だが能の女面にそっくりな女性だった。
井口主任と俺は、短期間でSの獲得を余儀なくされている。今回の爆破で命を落とした『桃源郷』の社員こそ、潜入捜査していた井口主任の同期生だったのだ。
俺の所属する会社は、いわゆる公安。死んでも警視庁の殉職者として、名誉など賜れる事なく消えてゆく存在だ。敵を打つのは俺たち以外にはいない。
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