EP-10

10/10
前へ
/162ページ
次へ
「栞ちゃんに電話したんだけど、連絡が付かなかったのよ。でも諒に電話したら繋がったから、迎えに来るように言っておいたからね。もう少ししたら着くはずだから、それまではとりあえず、泣きたいだけ泣いておきなさい」 凜はなだめるように、なぐさめるように、私の背中を優しく撫でた。ため息交じりのつぶやきが、耳の側を通り過ぎる。 「この前会った時は幸せそうな顔してたのに……。これはもう、男がらみでしかないわねぇ。……あら、意外と早かったわね」 凛の声に、諒が来たことが分かった。 諒は明らかに戸惑った声で言う。 「何なんだ、瑞月のこの状態は。いったい何があったんだ?」 凛の苦笑交じりの声が聞こえた。 「さぁねぇ、何があったのかしら……。ま、だいたいの予想はついてるけどね」 頭の上で交わされている二人の会話を、私は夢うつつで聞いていた。聞き慣れた声に安心したのだろうか、瞼が重たくなってきた。 もうダメだ……。 そう思う間もなく、盛大に流した涙の跡もそのままに私はくたりとテーブルの上に突っ伏した。かろうじて生きていた意識が薄れかける。 諒の呆れ声が聞こえる。 「まったく、世話が焼けるな……。車さ、すぐ近くのパーキングメーターの所に停めてきたんだ。凜、悪いけどそこまで手伝ってくれないか」 「もちろんよ。酔っぱらいっていうのは、とにかく重たいものね」 よいしょ、という掛け声が聞こえたと思った。けれどそれきり私の意識は途切れてしまったようで、最後に覚えているのは懐かしいような匂いと温かさだった。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1022人が本棚に入れています
本棚に追加