EP-2

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四才年上の凜は、男の子であって女の子だった。いや、女の子の心を持った男の子と表現した方がいいのか。 子どもの頃から、凜と私は兄妹のように仲が良かった。両親の仕事の都合で凜は私の家に預けられることも多かったから、幼馴染たちと同じくらい一緒にいる時間が多かった。 その日凜は、私にクッキーを焼いてくれるという約束で、我が家に来ていた。キッチンで作業をしている時、二人になったタイミングで大きなため息と共にぽつりと言ったのだ。 僕さ、女の子は好きになれないみたいなんだ――。 文字通りの意味と捉えた私は、その言葉をなんの抵抗もなく受け入れていた。学校で、あるいは友達との間で何かあったのかもしれないと思ったが、その顔が寂しそうに歪んでいたから何も訊ねなかった。ただ、うんと一つ頷いた。 凛は性格も物腰も柔らかい男の子だった。だから、感覚的にそうと感じていた部分があったのかもしれない。凛が好きになるのは男の子だと知っても、特に違和感は覚えなかった。凜は凜だと思っていたし、大好きな従兄であることに変わりはなかったからだ。 ぼつりともらしたその言葉自体を、私が否定しなかったことに安心したのだろうか。その後、時折ではあったが、凜は私の前でそれに伴う悩みを口にするようになった。特に答えを求めている様子はなかったし、私にしてもその話に耳を傾けることしかできなかった。が、凛の嬉しそうな顔を見る限り、きっとそれだけで良かったのだと思う。少なくとも私の前では、凜は素の自分を見せるようになっていて、一人称と口調を使い分けるようになっていた。
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