EP-13

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EP-13

諒はベッドに座り直して私の問いかけに答えた。 「うちの病院の医療事務スタッフって、それ系の派遣会社に委託してるんだけど、その中の一人がちょっとね……」 「困ってるなら、その派遣会社に言えばいいんじゃないの?」 「困ってるというか……。自意識過剰とか思い込みとか思われそうな、微妙な感じだし」 「例えば?」 「うぅん、そうだな……。周りに俺のことを根掘り葉掘り聞いて回っているらしいとか。うちの診察室って、事務方が入ることってないんだ。ドクターとナース、あとは清掃くらいね。だけどある朝、パソコンとキーボードの間に手作りらしいお菓子が置かれていたことがあったな。メモも何もなくて誰からか分からなかったけど、たぶんその彼女だろう。ナースはそんなことしないし、受付の前を通った時、もの言いたげな顔で俺のこと見てたからな。あとは、お弁当を作って来たんですとか言って、わざわざ医局まで持ってきたこともあったな。もちろん丁重にお断りした。医局エリアも派遣会社のスタッフは基本、立ち入らないことになってたはずなんだけどな」 「それだけ諒ちゃんのことが好きだということなんじゃ……」 諒は顔をしかめる。 「その人には悪いが、俺は好きじゃないから。あぁ、こんなこともあったな。他の先生が目撃したんだけど、俺の車の周りをうろうろしていた話とか。仕事が終わって通用口を出たら、いきなり建物の影から音もなく現れて、今帰りですか、一緒に帰りませんか、とか言ってきたりしたのが数回。彼女の就業時間はもうとっくに過ぎているのに、だぜ。あれはなかなか怖かった」 「へぇぇ……」 聞いているうちに、ただでさえ忙しいだろうにと、気の毒になってきてしまう。
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