EP-15

7/7
前へ
/176ページ
次へ
「え……」 私は瞬きをして諒を見た。 言われてみればそうかもしれないと思った。あまりに衝撃的で怒涛の展開だったから、傷ついたままでいる暇がなかった気がする。 諒はくすっと笑うと椅子から立ち上がった。 「さて、と、そろそろ帰るよ、片づけないで悪いけど」 「うん……」 私も立ち上がり、諒を見送るために彼の後ろに着いて玄関に向かう。 途中で足を止めた諒が振り返った。 「あのさ。また、前みたいに、たまにお前の飯が食べたい」 「でも……」 「今日久々にお前の手料理食べたら、また、って思ってしまった。余り物でもいいからさ。……だめ?」 諒は身をかがめて私の顔を覗き込んだ。 距離が近すぎて、どきりとした。私は目を伏せて口ごもりながら答える。 「で、電話もらったら、できる時は、用意してあげてもいいよ」 「うん。その時は電話する」 諒は嬉しそうに目を細めると、私にキスをした。 「キスしていいなんて言ってないよ」 はっとして体を引きながらそう言った私の声は、自分でも呆れるほど弱々しかった。 諒は微笑んで私を見下ろす。 「普段からこうしてた方が、そういう場面になった時、恋人同士らしく振舞えるだろ?それじゃあ、またな。戸締り、しっかりしとけよ」 諒は靴を履いてドアを開けると、笑顔を残して帰って行った。 恋人役って、普段からそういう感じでいてほしいっていう意味なの――? 諒を見送った後の玄関で、私は小刻みに鳴る心臓の音に耳を傾けていた。彼に抱かれたあの夜をきっかけに生まれた感情が、形を成しつつあるのが分かった。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1105人が本棚に入れています
本棚に追加