EP-17

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店に入ると、カウンター席しか空いていないと、店員は申し訳なさそうに言う。 「どうする?」 「全然構わないよ」 そう答えながら、諒の正面に座らなくてすむと、私は内心ほっとしていた。今夜の私は、幼馴染の顔で彼を真っすぐに見る自信がなかった。心がざわめいていて、きっと上手に表情を作れない。 一方の諒は穏やかな顔をしていて、何も変わった様子がない。 それを見たら、あの日からずっと私を翻弄し続けている張本人のくせに、と悔しさがこみ上げてくる。 「食べたい物、なんでも注文していいぞ。俺のおごりだから」 諒は私の前にメニューを広げる。 本当ならば、助けてもらった私が、諒に礼としてご馳走するべきなのだろう。しかし、私はいらいらしていた。だからと言って、彼にその気持ちを直接ぶつけるつもりはない。その代わり、私はメニューの中で一番お高いステーキコースを注文することにした。付け合わせにニンジンがついてくるらしい。 あとで無理にでも食べさせてしまおうか――そんな不穏なことを考えた。本当にはやらないけれど。 「これにする」 諒は目を瞬かせて、私とメニューを交互に見た。 「結構ボリュームあるみたいだけど、大丈夫なのか」 「余ったら、諒ちゃんが食べて」 「はいはい」 諒は苦笑を浮かべたきり何も言わず、店員を呼んで注文を伝えた。
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