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食事を終えて店を出ると、諒は車のエンジンをかけてから思いついたように言う。
「ドライブしながら帰ろうか」
「諒ちゃんが疲れていないのなら、私は構わないけど」
「俺は大丈夫さ。夜景でも見に行くか。恋人同士らしくていいだろ?」
「偽物の恋人だけどね」
私はもやもやした気分でぼそりと言った。それが諒の耳にどう聞こえたのかは分からない。ただ、それを聞いた彼が苦笑したような気がした。
諒に連れられて行ったのは、街からやや離れた高台にある展望広場だった。そこはこの街の夜景スポットだ。週末にはカップルなどが多くやってくると聞くが、今日のこの時間、それらしいシルエットは二組だけだった。
諒はエンジンを切って車を降り、助手席のドアを開けて私を外へと促した。
「せっかくだから、外に出てみようか」
差し出された諒の手の上に、私はためらいがちに自分の手を乗せた。地面に足を下ろし、目の前に広がる夜景に目をやった途端、感動の声が出た。
「わぁ、綺麗ね」
他にも人がいたから、諒にだけ聞こえる声で言う。
今夜は空気が澄んでいるのか、街の灯りがきらめいて見える。光害の影響はあるものの、夜空には星も見えた。
その場に立ったまままばゆい光景を眺めていると、諒が声をかけてよこした。
「座ろう」
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