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広場にはベンチがいくつか置かれていた。
車を降りた時から手を繋いだままだったことに気がつき、私は諒から離れようとした。しかしその瞬間、それを止めるかのように彼の手に力が込められて、どきっとした。
「諒ちゃん、手、もう大丈夫だから……」
諒は肩越しにちらと私を振り返った。
「暗くて足元が危ないから、このまま」
そう言って彼は私の手を引いたまま、ベンチまで歩いて行く。
子どもの頃には、よくこんな風に手を繋いで一緒に遊んでいたものなのに、今はどうしてこんなにどきどきするんだろう――。
私が座るのを見て、諒は私のすぐ隣に腰を下ろした。
近い――。
鳴り止まない心臓の音が伝わってしまいそうだ。緊張しながらほんのわずかに彼から距離を取った。
諒はそれに気づいた様子はなく、私を気遣う言葉を口にする。
「少しは気分、変わったか?」
「うん。あの、ありがとう……」
やけに近く聞こえる諒の声に、鼓動がはじけた。
気づかれたくないのに――。
どきどきし続けている胸を鎮めるために、自分の気を逸らすために、何か話さなくてはと言葉を探した。
「えぇと、そう言えば……」
私は夜景に目を向けたまま言った。
「仕事って、やっぱり忙しいんでしょ?ドクターって、激務だって聞くもの」
「今いる病院は勤務体制がしっかり考えられているから、休みは適当にもらえているよ。それに俺、体力には自信がある。だから大丈夫だよ」
「それならいいんだけど……」
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