EP-19

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「あなた、派遣の……」 そこには、無断欠勤中であるはずの幸恵が立っていた。 「鈴木さん、あなたずっと無断欠勤していたそうですね。今、あなたの派遣会社の方が……」 しかし幸恵は私の言葉など聞いていない。 「こっちへ来て」 「え、ちょっと、何ですか。私、忙しいんですが」 「いいから、来てよ!」 幸恵は苛立ちも露わに、私の腕をぐいっとつかんだ。それから非常階段の方へ向かって、力任せに引っ張って行く。 私自身はそう非力でもないと思っていたけれど、どこにそんな力があるのかと思うくらい幸恵の力は強く、それにかなわない。 前を見据えるようにして歩く幸恵に私は言った。 「離して下さい。ねぇ、鈴木さん、あなた、無断欠勤だなんて、周りに迷惑かけてるってこと、分かっているんですか。営業部にはもう顔を出したんですか?」 幸恵は非常階段の踊り場にたどり着くと、ようやく足を止めて、私から手を離した。それからくるりと向きを変えて手すりにもたれると、私に恨みがましいようなジトっとした目を向けた。 「大原さんは幸せそうでいいですよね」 私は眉をひそめた。 「そう見えるのなら良かったです。特に話がないのなら、私はこれで」 早くお茶の準備をしなくては――。 そう思いながら踵を返そうとした私に、幸恵は言った。 「私、切迫流産で入院していたんですよ」 「え……?」 思いもよらなかった彼女の言葉に、私は思わず足を止めて振り返った。
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