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「それはそうだろうな……」
諒はベッド脇に椅子を持ってきて座り、私の頭を撫でた。
「おばさんにも言ったけど、階段からの転落で、これくらいですんで本当に良かった。今日の午前中の急患対応、俺だったんだよ。意識をなくしてるお前が運ばれてきたのを見た時は、心臓が止まるかと思った。付き添って来た人は、お前が階段から落ちたとか言うしさ。もしも打ちどころが悪かったらと思うと……」
諒は声を詰まらせて、私の頬を撫でた。
「死ぬことだってあるんだからな」
私は布団の中から手を出して、諒の手に触れた。
「心配かけて、本当にごめんなさい。それから、ありがとう」
「ん……」
諒は私の手を握り返し、それから考え込むような顔をした。
「……まさかとは思うけど、誰かに突き落とされたんじゃないよな?」
諒も母と栞と同じようなことを言う。
話そうかどうしようか迷った。けれど、心配そうに私を見つめている諒を見たら、その時の顛末を話しておいた方がいいと思った。
「あのね、実は……」
階段から転落することになった時の経緯を、私はぽつぽつと諒に話して聞かせた。
私の話を聞き終えた途端に、諒は顔をしかめた。
「警察沙汰にするようなことでもないのは、一応は理解した。でも、あの男がらみの話はまだ続いていたとはな。しかもそんな逆恨みのような理由で……」
「うん。でも。きっともう、今度こそ終わるよ」
「なぜそう言い切れる?」
「だって、少なくとも彼女はもう、うちの会社では働けないから。それに、救急車を呼んだのは、その時そこに一緒にいた彼女だったって聞いたの。彼女だって、まさかあんな事態になるとは思っていなかったと思うの。だから」
「瑞月はお人好しだな」
諒は呆れたように、けれど優しく目を細めた。
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