EP-29

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EP-29

甘すぎる夜を諒と過ごしてから一週間。彼の部屋で一緒に生活するようになってからは、二週間ほどがたっていた。 彼の部屋には私の物が増えた。特にキッチンは一番変化があったと思う。この場所に立つのは今ではほとんどが私だったから、使いやすいように物の配置を変えた。料理道具や食器も増えた。 諒はそれを見て、結婚したらこのままここに住んでも大丈夫そうだなと笑う。 本当に結婚するんだな、私――。 自分の物も増えた諒の部屋を改めて見渡してみては、じわじわと「諒との結婚」の現実味が増してきて、ついにやけてしまいそうになる。 そんなある日、母から電話がかかって来た。 ちょうどその時、諒は入浴中でその場にいなかったが、一緒に住んでいることがバレやしないかとひやひやした。婚約しているわけだから一緒にいることはまずくはないのだろうが、私の両親のことだ。例え暫定であっても、結婚前の男女が同棲なんて、と怒り出しそうだと思った。 だから、諒の気配が届かなさそうなバスルームから一番遠い寝室に行き、ドアを閉めて、私は母からの電話に出た。 ―― お式のこととか、話は進めてるの? 「え、と。まだこれからかな」 ―― 諒ちゃん、忙しいでしょうしねぇ。お正月は一緒に来られるのかしら?その時にでもまた話せたらいいんだけど。真希子さんとも楽しみね、なんて言ってるのよ。 母は楽しそうに言う。 「近くなったら、諒ちゃんの予定、聞いておくよ」 ―― ねぇ、瑞月。なんだったらもう、諒ちゃんと一緒に住んじゃったら? 「えっ!」 母の予想外の言葉に、つい大きな声が出てしまった。
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