EP-30

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EP-30

その日の会社帰り、私は久しぶりに自分の部屋へと足を向けていた。明日の仕事でジャケットが必要になり、急遽それを取りに行く必要が出てしまったのだ。 もちろん、諒にもそのことは連絡を入れておいた。 『俺が帰ってから一緒に行こう』 諒からはそんなメッセージをもらったが、たかだかこれくらいのことで、忙しい彼の時間を取らせるのは悪いと思った。彼の部屋と私の部屋はそんなに離れてはいないし、あれから私の身の回りでおかしなことは起きておらず、怪文書も入っていないようだ。急いで用事を済ませて戻れば大丈夫だと思った。 『十分に気を付けるから。用事を済ませてから諒ちゃんの部屋に戻ります』 私は諒にメッセージを送った後、彼の返信を待たずに自分の部屋へ向かったのだった。 何日かぶりに自分の部屋に入ると、早速クローゼットからジャケットを取り出した。紙袋に入れ終えた時、諒から電話がかかってきた。 ―― 仕事が終わったんだ。迎えに行くまで部屋にいて。 「分かった」 諒が勤務する病院からここまでは、車で三十分くらいだ。それまでの間、私は部屋の窓を開けて換気をし、簡単に片づけて回った。 諒と一緒に住むようになって、日常的に必要な細かなものは彼の部屋に置いてある。学生時代からここに住んで八年ほどになるが、その間にたくさん物が増えた。引っ越しとなれば、なかなかの一大イベントになりそうだ。 私は自分の左手の薬指を見る。そこにあるのは、諒とおそろいのデザインで買った婚約指輪だ。普段使いしやすいように、大きな石は使っていない。 諒の部屋で暮らすようになって、毎日彼の傍にいる生活をしているが、今日のようにふと一人になると不思議な気持ちになることがある。諒と一緒に住んでいることもそうだけれど、近い将来彼と本当に結婚するのだと思うと、ますます夢でも見ているようでふわふわした気分になるのだ。
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