EP-30

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ぼんやりと思いに耽っていたら、インターホンが鳴った。 私は我に返り、慌てて玄関に出て行った。 「諒ちゃん、お疲れ様」 「瑞月もお疲れ様。待った?」 「全然。あ、ちょっと待ってて。荷物、持ってくるね」 私は玄関先に諒を待たせたまま部屋の中に戻り、開け放っていた窓を閉めて戸締りを確認した。紙袋を手に持ち、靴を履く。 「行こうか」 諒に促されて、私は頷く。 次に戻って来る時は、少しずつ引っ越しの準備に手をつけないと、かな――。 階段を降りて外に出たところで、諒が言った。 「来客用が空いていなかったから、車は向こうの有料の方に停めたんだ」 「そうなんだ。たったこれだけのために、なんだかごめんね」 「俺が迎えに来たかったんだから、気にしなくていいんだよ。心配だしな」 「ありがとう」 諒に笑顔で礼を言ってから、私ははたと足を止めた。 「あ、ポストを見てくるの、忘れてた」 「それなら俺が」 「大丈夫よ。だって駐車場はすぐそこで、ここからも見えるもの。諒ちゃんは車に行ってていいよ」 私はそう言って諒の返事を聞く前に踵を返した。 その時だった。 建物脇の繁みの陰から不意に女性が飛び出してきて、私の目の前に立った。 私はとっさに体を引いた。 ――誰? 混乱しかけながらその人に目を向けて、どこかで見たような気がすると思った。次の瞬間、彼女が私に向かって走って来た。 「あなたさえいなかったら……っ」 「瑞月っ!」 ほぼ同時に諒の声が重なって聞こえた。目の前には彼の広い背中があった。 「大丈夫だったか。怪我はない?」 「え、えぇ、大丈夫……」 胸がどきどきしていた。諒に縋りつきたくなって、彼の腕に手を伸ばしかけた私ははっとした。諒が左腕を押さえている。 「諒ちゃん、腕、どうしたの……」 よく見ると、街灯の下でも分かる程、彼の指の間がじっとりと濡れていた。 まさか、血……?
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