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「本当に、申し訳ありませんでした。病院でのお仕事はもちろんやめます。こんなことを仕出かしてしまって、いったいどのようにお詫びしたらいいのか……。お二人にはご迷惑をおかけしました……」
そう言うと、どこかに電話をかけようとしてか、彼女が携帯を取り出した。
しかしそれを止めるように、諒は彼女の手から携帯を取り上げる。
「返して下さい!警察に電話して自首を」
「私が言ったことを聞いていなかったんですか?この先、私たちに関わらないでもらえればそれでいいんです。こんなことで、あなたの大切な人たちを悲しませないでほしいと思うから」
「先生……」
「さぁ、私が言った言葉の意味を理解したのなら、どうかもう帰ってください。私たちの前に二度と現れないで」
そう言って私の傍に戻ってきた諒は、あとはもう振り返ることなく、私のマンションに向かって歩き出す。
彼に寄り添って歩きながら、私はちらりと背後を振り返った。
彼女はふらふらと立ち上がり、深々とお辞儀をしてから、背を丸めながら立ち去って行った。
彼女の姿が小さくなったと思った時、私ははっとして諒の腕を見た。
「痛みは大丈夫なの?やっぱり病院に行こうよ」
諒は無事だった方の手で、おろおろしている私の頬をそっと撫でた。
「そんな顔するなよ。本当に大丈夫だから。とりあえず、お前の部屋へ行こう」
諒の言葉に私は仕方なく頷き、彼の先に立って階段を昇った。
部屋に入った私はすぐに救急箱を用意した。タオルやコットンも準備する。
上着を受け取って、私は彼の前に座り、血が広がったシャツの袖をそっとまくり上げた。消毒液を使いながら血を拭う。
その途端に諒が小さく声を上げた。
「いてっ」
「ごめんなさいっ!」
私は慌てて手を引っ込めた。
諒は苦笑しながら自分の腕を見た。
「少ししみただけ」
血を拭った後の肌を確かめるようにじっと見て、諒は傷跡に指先でそっと触れた。
「やっぱり、たいしたことなかった」
「本当に?」
「本当に。服の上からだったし、女性の力だったからそんなに力もかかっていなかった。上から刺されたらまずかったかもしれないけど、そうじゃなかったし、上手くかわせたみたいだ。若いフリしないで、もっと厚手のコートを着ていたら、こんな傷もつかなかったかもな」
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