EP-8

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「……彼に口留めされていたから」 苦しい言い訳だとは思ったが、彼女はそれ以上追及してこなかった。その代わりこう言った。 「そ、それなら、付き合っているっていう証拠はあるの?」 「えっ……」 言葉に詰まった私の肩を諒はきゅっと抱き、髪に顎を埋めながら、艷やかな笑みを浮かべる。 「恋人じゃなきゃ、こんな風には触れませんよ」 「それくらいのこと、証拠にならないわ。例えばキスくらいはしてみせてくれないと。簡単でしょ?」 「まったく……困った人ですね」 諒は呆れ顔で彼女を見た。 「キスして見せたら俺たちが本当につき合っていると認めて、今度こそ本当に諦めてくれるんですね?」 「え、えぇ、悔しいけれど……仕方ないわ」 彼女は唇を噛んだ。 諒はわざとらしく肩で大きく息をつき、つぶやいた。 「しようがないなぁ。見世物じゃないのに……」 諒はその手を私の頭の後ろにそっと回すと、小声で言った。 「瑞月、ごめんな」 待ってよ。本当にキスするの――? 答えを確かめる暇もなく、諒は私の唇に自分の唇を重ねた。混乱して彼の胸を押し戻そうとする私を宥めるように、あるいは彼女から私の姿を隠すように、もう一方の腕で私をそっと抱き締めた。 唇が触れあっていた時間は、ものの数秒だったはずだ。それなのに、まるで時間が止まったかのようにひどく長く感じられて、呼吸が苦しい。
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