EP-10

8/10
前へ
/162ページ
次へ
外に出てしばらく歩いたところで立ち止まり、私は後ろを振り返った。将司は追いかけては来なかった。 追って来られたとしても、私の気持ちは変わらないけれど――。 別れというものは意外と突然やってきたりするものなんだなと、変なところで感心してしまう。昨日の午前中までの私は幸せだったはずなのに、まさかこんなことになるとは思っていなかった。けれどショックが大きすぎるためなのだろうか、不思議と涙の一滴もこぼれない。 私は駅の方に向かって歩きながら、この後どうしようかと考えた。 「どうせ明日は休みだし、飲みに行こうか。それで少しでも早く忘れよう」 今までの私だったら、一人で飲みに行こうなどと、考えもしなかっただろう。自暴自棄になっているわけではないけれど、とにかく今は、何かに頼って頭も心も空っぽにしたいと思った。 駅近くの繁華街に足を向けた私は、とりあえず目についた居酒屋に入り、おつまみ類とサワーを注文した。もともとそんなに強いわけではない。一杯飲んだところで、自分でもいい感じと思うくらいの酔いが回ってきた。しかし、それだけではまだ足りなかった。どうせなら何もかもが分からなくなるほどに、とことん酔ってしまいたかった。 私は次の店を探して、ふらふらとした足取りで飲み屋街を歩いていたが、近くに凜の店があることをふと思い出す。私は元来た道を引き返した。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1020人が本棚に入れています
本棚に追加