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バニーさん(ダークファンタジー 5分)
塾の宿題をしようと筆箱を開けたら、消しゴムがなかった。買ったばかりの、コーラの匂いが付いた消しゴムだった。
机の上で鞄を逆さにしたら、ノートや教科書に交じって、小さな女の人が転がり出てきた。
イタタ、とお尻を擦りながら立ち上がると、ちょうどリカちゃん人形くらいの背丈があった。
「あたしのハイヒール、どこかしら?」
んしょっ、とノートを持ち上げ、「一緒に探してくださる?」と私を振り仰ぐ。
私はドギマギしながら頷くと、散らばった本やノートをパラパラと捲った。そうやって探すふりをしながら、女の人を見ていた。目を離すと消えてしまいそうな気がしたから。
その人は、昔サーカスで見たことのあるバニーさんの格好をしていた。それがとても可愛らしく似合っていて、うさぎの耳は実際に頭から生えているみたいに自然だった。
「あら、あんな所にあったわ」
真っすぐ伸びた足ですたすた歩いて、筆箱の陰から親指の爪くらいの大きさの、赤いハイヒールを拾い上げた。
「もう片方はどこかしら?」
それは私の足のすぐ傍に、絨毯の毛に半ば埋もれて落ちていた。
人間界に忘れ物をしたら帰れないという、妖精界のルールをどこかで読んだことがあった。さりげなく足の下に隠しながら、自己紹介した。
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