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誠司と利蔵
「おい、利蔵。そろそろ話を聞いてくれないか?」
部屋の隅に置かれたデスクから、誠司が呆れたように声を掛けてよこした。だが苛つきの滲む誠司の声もどこ吹く風で、手触りのいいファブリックのソファに寝転がっている利蔵が、間の抜けた声で返す。
「誠司の依頼は、毎回面倒なモンが多いからなあ」
いかにも個人経営の法律事務所といった小さな部屋だ。
だが南向きの窓からは春の陽射しが差し込み、明るくて温かな印象を与えるところが誠司は気に入っていた。だが昔なじみの利蔵にとっては、ただの心地いい昼寝場所でしかない。誠司はやれやれとため息をついた。
「確かに厄介事を任せてるっていう自覚はあるよ。だけどおまえだってその方が性に合うんだろう? 暇すぎてちっとも時間の進まないビルの警備やってるよりはさ」
利蔵はちぇっと舌打ちを洩らすや、がばっと起き上がった。
「ったく、これだから弁護士先生はよう。こっちの性格見て首根っこ押さえるような真似しやがって」
元より利蔵とて、依頼を断るつもりもない。しがない警備員の身にとって時折誠司が寄こしてくれる仕事は、貴重な収入源だ。
利蔵はソファの背にどすんと音を立ててもたれると、どっかと足を組んだ。
「で? 今度はどんな厄介事だよ。面倒なことはさっさと聞いちまった方がいい」
誠司はやれやれ手間がかかる、というように苦笑した。
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