新生活

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 受付には気軽に使える休憩室はなく、時間に余裕があるときは食堂の横にある休憩室へ行くけれど、少ししかない時は外へ出て新鮮な空気を吸って、一息ついて戻っていた。  一人の空間で優雅に昼食を取り、誰の目を気にすることもない。窓の外には高層階からの景色が素晴らしく、仕事もやりがいがありそうで、初日から楽しく文句のつけようがない。婚約契約という厄介なことさえなければ、最高の環境なのだ。   「はぁ〜」  けれど婚約契約のことを思い出すと、優雅な気分が一気に急降下する。一緒に住まなくても、社長と社長秘書としての節度のある距離感でいいのではないだろうか。もし万が一にでも不履行にならなかった場合、その時に改めて新生活を始めたらいいのではないかと思う。  と言っても、昨日の様子から私の意見が通るとも思えず……  右京の方から頼まれて、関係を解消するように持っていくしか、方法はないのだ。    私の普段の姿を見たら一瞬で引かれると思うけれど、万が一のことがある。他にも色々と作戦を練っておくべきかもしれない。  
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