魔女マリア

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魔女マリア

 今いる世界が童話ラプンツェルの世界だと気付いたのは、前に住んでいた家での近隣トラブルからだった。  マリが転生したマリア・エーデルシュタインと言う人物は、治癒の魔法を得意とする魔女で、小さな農村の片隅で薬草園と家を構えていた。  生まれながらに魔力を持っているのと異常なまでの博識さを除けば、ぶっちゃけ何処にでもいる小母さんである。  人付き合いも悪くなく、それなりに上手く暮らしていたのだが、ある時、隣に越してきた若夫婦が大問題だった。 「ちょっと!何勝手に人の畑に入ってるのよ!」  薬草採取の最中、彼女は怒号を上げた。  堂々と我が物顔で育てていたチシャ菜を毟っていたのは、隣の旦那である。 「妻がこれが欲しいと言ってるんだよ!妻は身重なんだ!」  被害者ぶった口調で旦那は叫び返し、止める間もなくチシャ菜を強奪。  どうやら隣の夫婦は魔女は天性の悪人と思っているらしく、やりたい放題。  野菜泥棒だけでも腹立つのに、薬草まで踏み荒らすものだから堪まったものではない。 「マリアさん、大丈夫かい?」  そう声をかけてくれたのは村長の老人である。  原作での魔女は無愛想だったようだが、マリアの前世は三十路のお節介小母さん。  ある時、何の前触れもなくかつての記憶が蘇って以来、過去の性格が困っている人を放っておけず、あれこれと村の人の世話を焼いている内に、すっかり善い魔女の評価を貰った。 「すまんね。領主の頼みで受け入れてしまったが…」 「村長の所為じゃないわ。大方、街でもトラブル起こしてこっちに引っ越しを命じられたんでしょうね」 「もし良ければ、以前話した西の森の塔を譲るよ?古いが水場も近いし、あそこの周りなら好きなだけ薬草園を作れるだろう」 「ありがとうございます。前向きに検討するわ」  そんな会話をしつつ、一先ずその場を別れた。  それまでの行いが功を奏し、村の人々は友好的であったが、問題はラプンツェルが誕生してからのシナリオであった。  この世界の魔女マリアは、悪役であるので殺されるなどの不幸に見舞われる可能性もあった。  ―――できる事なら、この世界の主人公ラプンツェルには関わりたくない。  そう思っていたのだが、運命は心底意地悪だった。
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