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「マリア、私と王都に来ないか?責任を取りたい」
服を着直していた最中、背後から抱き締められて、そう囁かれた。
責任とは何とも彼らしい提案である。
「勿論、ラプンツェルも一緒だ。王都ならば彼女の髪に掛けられた魔法を解く方法が見つかるかもしれない。それに君の腕なら宮廷魔法使いに推薦も…」
何処か必死な彼に胸が苦しくなった。
――嗚呼、なんて罪深い事か。
国の英雄ともあろうお方を知らぬ間に虜にしていたらしい。
なんて悪い魔女だろう。
悪役の分際で、人並み以上の幸せを望もうとしていたなど――、唯、穏便に暮らして行ければそれで良いと思っていた癖に―――…。
「ヴォルフレン様、今夜のことは二人だけの秘密に致しましょう…」
絞り出されたマリアの返答に、彼は息を呑んだ。
「魔女に惚れたなんて悪評を背負わせる訳にはいきません。貴方はこの国の英雄なのですから…」
振り返り様、距離を取りながら毅然と告げた。
毅然と告げたつもりなのに、涙が溢れそうだった。
「マリア…」
「娘の魔法は自力で解きます。これ以上、情けを掛けて頂く訳には…」
「情けではない…!」
その叫びと共に再び抱き寄せられる。
拒まなければいけないのに、その胸に手を充てがうのが精一杯だった。
「愛している。君の全てが愛おしくて堪らない…」
縋るような声色に、胸が締め付けられる。
いけない。
彼を望んではいけない。
住む世界が違い過ぎる。
この世界は童話の中でありながら現実で、一介の平民風情が大公妃になるなど有り得ない。
この世界では、自分は悪役なのだ。
ラプンツェルが王子と幸せになった後、魔女である自分はこの表舞台から立ち去らなければいけないのに―――…。
決死の思いで彼を押し除け、マリアは溢れる涙を必死に呑んだ。
「…駄目ですっ、私は貴方には…!私は悪い魔女なの…っ!表舞台で幸せになってはいけないのよ!」
拳を握り締めて彼女は叫び、大粒の涙を零した。
止められない涙と悲しみに堪らず踵を返して走り出し、その場から逃げ出す。
これ以上、彼の側にいることが耐え難かった。
いつの間にか彼を好きになっていた自分に耐えられなかった。
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