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地鳴りを伴い、蹄の音が轟く。
駆け付けたのは、ヴォルフレン達近衛騎士団だった。
「王都からも黒煙が見えた…!全隊に通達!負傷者の優先選別を開始せよ!同時に放火犯の特定を急ぎ、残りの消火に当たれ!」
その号令に騎士達が一斉に動き出す。
統率された彼等の動きは機敏だった。
尚も燻る炎を持ち寄った灰や土で消し止め、負傷者の手当の傍ら聴取に取り掛かる。
(トリアージっ?)
この世界ではまだ存在しない筈の単語にマリアは一瞬耳を疑ったが、訊ねている暇はなかった。
ここには医療行為と言えるだけの行為が出来る者は自身しか居なかった。
魔力回復の薬の入った小瓶を呷り、その苦みに耐えながら必死の思いで重症者から手当を急ぐ。
誰も死なせなくない―――、死なせて堪るものか!
副作用で鼻血が出ようが、目眩で足元がふらつこうが根性で耐えた。
「残りの患者は⁉」
「後は軽症だ!マリアさん、よくやってくれた!」
駆け着けてから約三時間、村長の返答にやっと収束したことを理解した。
途端に崩れるように座り込み、どっと汗が吹き出した。
顎筋を流れた汗を拭った袖は、自分だか人のだか分からない血と汗で湿り、限界を超えた身体はガタガタと震えていた。
―――少し休みたい。
そう思った瞬間、フッと身体から力が抜けた。
ドサリと床に倒れ込み、騒然とする村人達の声が遠退く。
娘が心配するから早く帰りたいし、着替えもしたいのに体が重い。
どうしよう。
動けない。
「マリア!」
その声に閉じ掛けた瞼を微かに開く。
駆け寄る姿は霞んでいたが、抱き上げられたその温もりでヴォルフレンだと分かった。
―――昨晩のこと、謝らなきゃ…。
そうは思うも鉛のような体が言葉を発する事を許さなかった。
「大丈夫。後は任せてくれ…」
優しい手付きで頬を撫で、柔い声が安心しろとばかりに囁かれる。
その声に安堵して、マリアは微かに微笑むと事切れるように意識を失った。
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