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それは、とある嵐の晩だった。
雨風で薬草が傷まぬように畑に対策を施し、その日は早めに就寝。
その真夜中だった。
キッチンから聞こえる物音に気付いてマリアは飛び起きた。
まさか―――!
嫌な予感は的中し、駆け付けたキッチンでその目に飛び込んで来たのは堂々と戸棚を漁る隣の旦那の姿だった。
「こんの泥棒!」
即座に怒鳴り付け、手近にあった本を投げ付ける。
旦那は悲鳴を上げながら、パンパンに膨れた鞄を抱えて逃げ出し、一目散に自宅へと逃げ込んだ。
「あーあー…」
散乱した室内に溜息しか出なかった。
貴重品は寝室に置いていたので盗られたのは食べ物や薬であったが、物色されたキッチンや薬草の棚はグチャグチャ。
取り敢えず、朝一で村長に報告すべく片付けながら被害の状況を確認。
暗がりで漁られた所為で交ざってしまった薬草も多く、一部は泣く泣く捨てる羽目になった。
(これは暫くお店を閉めるしかないわ…。流石に許せん…)
甚大な被害に商いの薬屋の営業停止を余儀なくされ、沸々と怒りが滾った。
苛立ちながらも最後にキッチンの戸棚の整理に当たり、そして気付いた。
ごっそり蜂蜜がない。
しかもその隣に仕舞っていた筈の特殊な薬草まで――…!
途端に警鐘を鳴らした胸に外套を引っ手繰って嵐の中、隣の家に突撃した。
「ちょっと!開けなさい!」
雨に打たれながら戸を叩き、何とか抉じ開けようと怒鳴りつける。
近頃、隣の家の奥さんが出産したものの乳が出ずに悩んでいるとの噂を聞いた。
四六時中聞こえる赤子の声から育児が上手く行っていないのは感じていたが、恐らく旦那はまた奥さんにせがまれて盗みに入ったのだろう。
(どうしよう…、蜂蜜もやばいのに、あの薬草は…!)
開かぬ戸に焦りが募った。
盗られた薬草や蜂蜜をもし赤ん坊が口にしてしまったら命に関わる―――。
刹那の躊躇いの後、簪代わりにしていた魔法の杖を髪から引き抜いた。
声高らかに呪文を唱え、直後バキンと中の閂が砕ける。
途端に戸を押し開け、駆け込んだ室内ではロッキングチェアの上で虚ろを見つめる奥さんと、その腕に抱かれる赤ん坊の姿があった。
その子の顔を見た瞬間、マリアは息を呑んだ。
髪や瞳の色は違えどもその顔はかつての自分が愛した娘にそっくりで―――、直感でその子が最愛の娘ララの生まれ変わりだと気付いた。
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