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何だかんだと辿り着いた自宅の塔の前、見知らぬ馬が草を食んでいた。
村での火事に乗じた脱走馬かと思ったが、かなり毛艶が良いし、装備も豪華である。
「シュバルツっ?何故ここに?」
その馬を見て、ヴォルフレンは目を疑った。
「知ってる馬ですか?」
何気無しにマリアは訊ねた。
知り合いの馬なら飼い主探しも早いと思ったが―――。
「フリードリヒ王子の馬だ。何故こんな所に…」
そう返された彼女は戦慄した。
途端に大慌てで馬から飛び降り、窓辺へ向けて娘の名を叫ぶ。
けれど案の定、返答がなかった。
まさか。
まさか―――!
警鐘を鳴らす胸に急かされ、塔の裏に回り込む。
極偶に使う裏口の戸を閉鎖していた石を蹴り飛ばし、重い閂を力任せに引き抜く。
爪を引っ掛けたが気にしている暇はなかった。
扉を抉じ開け、長い螺旋階段を必死の思いで駆け上がる。
「ララっ‼」
名を叫び、転げるように部屋へと駆け込む。
その目に飛び込んで来たのは、床に押し倒された愛娘とその上に覆い被さる王子の皮を被った獣の姿だった。
最も恐れていた事態だった。
「ララに何てことをっ‼」
鬼の形相で王子に掴み掛かり、張り倒すようにしてラプンツェルから引き離す。
マリアの後を追って駆け付けたヴォルフレンは即座にその場に座り込むラプンツェルに駆け寄り、素早くその身を目視で確かめた。
―――良かった。
衣服の状態からして未遂である。
「よくも…!よくも!」
胸倉を掴み、マリアは怒りのままに呆気に取られる王子の頬へと平手を振り翳す。
しかし、振り下ろす直前パシリとその手首を掴まれた。
「マリア、待て!落ち着くんだ!」
取り押さえるようにして言い聞かせ、ヴォルフレンは怒れる彼女を宥める。
怒りは収まらなかったが相手は一国の王子―――。
理由はどうあれ平民が王族に手を挙げたとなれば、それ相応の罰を喰らいかねない。
渋々引き下がった彼女をラプンツェルの下へと下がらせ、代わりにヴォルフレンは無表情で王子を引き起こした。
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