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「…何か言うことは?」
気不味げな王子を腕組で問い質す。
王子は言葉を躊躇うように口元をギザギザさせた。
大方、塔に住まう彼女達のことが気になるあまり、隙を狙って一人で王城を抜け出して訪ねてきたのだろう。
「そうか」
ただ一言、憮然と呟かれた瞬間だった。
唐突にヴォルフレンは拳を握りしめ、王子の腹を思い切り殴り付けた。
あまりにも重い一撃に王子は崩れ落ち、しかし、彼は追い討ちを掛けるように今度はその胸倉を掴むや抵抗する間もなく頬に平手をお見舞いした。
「ちょっ⁉ヴォルフレン様!流石にそれ以上は!」
一方的に殴られる王子に、マリアは堪らず止めに入った。
これ以上はいくら何でもやり過ぎである。
「何、この程度は教育的指導の範疇です。貴女が手を上げたとなっては後々、咎められるかも知れないのでね」
散々殴り飛ばされてぐったりする王子を床に放り出し、ヴォルフレンはフンッと鼻息を漏らす。
「ラプンツェル、申し訳ありません。怖い思いをさせましたね…」
そう言って、振り返った彼にラプンツェルはフルフルと首を振りつつも王子を気に掛ける。
その姿にマリアは娘を抱き締めた。
「貴女は悪くないのよ…?」
「うん…、でも…」
何やら彼女は言葉を躊躇う。
刹那の葛藤の末、ラプンツェルは意を決した。
「大公様、王子様をあまり責めないでください…!私っ…私が嫌がらなかったんです!家に上げたのも私です!王子様は楽しい話を聞かせてくれて!私の歌が素敵だって…!それが嬉しくて…!」
必死に王子を庇う娘にマリアはハッとした。
これはもしや―――。
「ララ、もしかして…」
「お母さん、お願い。王子様の事、赦してあげて?突然キスをされて驚いたけれど…、全然嫌じゃなかったの…、だからっ…」
俄に薔薇色に染まる頬と初心な表情に、嗚呼やはり…と思った。
「一目惚れなのね?」
その問いにラプンツェルは酷く頬を赤らめながらコクリと頷いた。
成程。
双方、若さ故の先走りである。
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