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「ララ、王子の手当てをしてあげなさい。母さん、お茶入れて来るから…」
穏やかにそう言って、肩を叩きながらそっと腰を上げた。
途端にラプンツェルは王子の元へと駆け寄り、その手を握って涙を浮かべた。
「王子様、ごめんなさい…、私がはっきり言わないからっ…」
「いや、私の方こそ破廉恥な事をした。すまない。叔父上に殴られて当然だ…」
お互い非を詫び、若い二人は手を取り合う。
その様にヴォルフレンは何か言いたげだったが、マリアは彼の背に触れて今は見守ろうと首を振った。
「王子様、痛い?」
腫れ上がる頬に触れ、ラプンツェルは悲痛に顔を歪める。
王子は当然の痛みだと嗤い、慰めるようにその指先を金の髪に伸ばした。
その時だった。
零れ落ちたラプンツェルの涙が床に弾け、黄金の光となってふわりと浮かび上がる。
光は綿毛のように漂いながら王子の身体に吸い込まれ、見る見る傷を癒した。
「治癒の魔法?」
呆気に取られる王子だったが、驚くべきことはそれだけでは無かった。
「ララ、髪が…!」
異変に気付き、茶の支度に取り掛かっていたマリアは娘に駆け寄った。
まるで、役目を終えたと告げるように長い髪が毛先から本来の色を取り戻して行く。
全て元に戻るかと期待したが、肩の長さまで色が戻った所で変化が止まった。
魔法の力がここで切れと言っているようだった。
「…魔力が残ってる…っ…」
金色のままの部分に触れ、そこに残った魔力にマリアは何処か残念そうに呟いた。
どうやらいくつか物語のシナリオが変わってしまったらしいと悟った。
「ララ、折角だから切っちゃおっか」
その問いに、ラプンツェルは何かを察したように少し淋しげに笑った。
王子とヴォルフレンが見守る中、母子は物語のピリオドを打つように色変わりした髪に鋏を入れた。
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