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「…お疲れかな?」
その声と同時に包まれるように抱き締められる。
振り返れば、王弟たる様相のヴォルフレンの姿があった。
王宮内では騎士の制服を脱ぐ為、近頃はこれが彼の姿である。
「愛しの魔女に構う暇がおありなら、学校建設の件だけでも代わってくださらない?」
嫌味たっぷりに言葉を返しつつ、その頬へと挨拶代わりに口付ける。
元より彼の推薦で王宮入りした為、貴族達からのやっかみは相当だった。
持ち前のオバハン根性と甲斐性で乗り切っているが、仕事関係で少なからず顔を出す羽目になっている夜会では、当然の如くヴォルフレンとパートナーを組む羽目となり、大公妃の座を狙う女達からは目の敵にされている。
全くのストレス社会だ。
「君には苦労を掛けるね…」
「今更…。元より覚悟の上よ」
そうは返すも、これまでの素朴で平穏な日々を打ち壊された事は根に持っている。
彼の口利きで元居た村には自身の代わりとなる医者や薬師が定期的に派遣され、村人の生活は保たれているがマリアが王宮勤めとなった事を寂しがる声も多い。
「ところで、近衛騎士団長たる大公様がこんな所で油を売ってて良いのかしら?ララ達の結婚式の事で忙しいんじゃないの?警備のあれこれとか王室の仕来りとか」
室内へと戻り、テーブルに置いてあったお菓子を小腹満たしに口へと放り込む。
「部下達が優秀なものでね。まだそこまで…」
不敵に微笑み、彼はソファへと腰掛けながら返答。
余裕たっぷりなその表情にマリアは呆れたように肩を竦めた。
大方、部下に仕事をぶん投げて来たのだろう。
近頃、副官達が多忙さに明らかに窶れていて、密かに栄養剤を貰いに来ているのは知っている。
これではどちらが物語の悪役か分かったものではない。
「流石は大公様。こき使えるだけの部下の方が居て羨ましいわ」
皮肉を込め、焼き菓子をその口へと押し込む。
刹那、唇に触れた指先を掴み取った彼は、ぐいっとマリアを隣へと引き寄せた。
「ちょっと?私も忙しいのですが?」
何やら甘い視線を送る彼に、照れ隠しで忠告。
すると彼は小さく溜息を吐いて、改まったように真剣な目をして胸ポケットへと手を差し入れた。
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